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経済破綻はなぜ起こったか?(2)スペイン編

 2010年のギリシャ、1989・2002年のアルゼンチン、1997年のタイなど、一国の経済が破綻したり、それに準ずるような危機的な状況に陥るという事態は、近年でもたびたび起こってきた。
 
 海外の事例ということで他人事のように思えるが、経済がグローバル化され、地球上のどこから自国に火の粉が降りかかってくるかを完全に予測するのは困難である今、日本が上記のような国々と同様の状態になる可能性はゼロではない。
 
 それならば、数々の先例から経済破綻が起きた原因やその発端を学んでおくことは決して無駄にはならないだろう。そんな観点から、今回は“ハイパーメディアクリエイター”として知られる高城剛氏の著書『世界はすでに破綻しているのか?』(集英社/刊)から、「スペイン危機」の事例を取り上げる。
 高城氏は2009年からスペイン在住。まさにこの危機の最中にいたことになる。

■「スペイン危機」の発端となった“バブル”
 第二次大戦後、民主化の遅れもあって、経済発展が他の西欧諸国から大きく遅れてしまっていたスペインだったが、1986年のヨーロッパ共同体(EC、現在のEU)加盟、1992年のバルセロナオリンピック開催などを経て、飛躍的な経済発展を遂げた。
 加えて、1999年にEU圏の共通通貨としてユーロが導入されると、EU内の先進国から新興国に、つまり金利の低い国から高い国に大量の資金が移動するという現象が起き、スペインは一躍その巨額投資の最大のターゲットとなったのだ。
 
 伝統的に持ち家率が高く、返済期間が50年にも及ぶ独特の長期住宅ローンがあるという条件にこの資金流入が重なり、スペインでは急速に不動産バブルが形成されていった。
 この波に乗るように、スペイン政府や各自治体はインフラ整備や「ハコモノ」といわれるような公共投資に力を入れるようになり、高速道路や鉄道、ニュータウン建設といった開発の波は、スペイン全土に広がっていった。このあたりの流れは、日本のバブルを経験した人であれば容易に想像ができるはずだ。

■好況がリーマン・ショックで暗転
 10年ほど続き、その間不動産価格を約3倍にまで高騰させたスペインの不動産バブルだが、2008年に入ると徐々に冷え込んでいく。これまでスペインに積極的に投資していたフランスやドイツの銀行が一転して投資資金を回収しはじめたのだ。
 いうまでもなく、アメリカのサブプライムローン問題の影響である。この問題が世界に広がっていくにつれて、ヨーロッパの銀行でも「スペインの不動産バブルも崩壊するのではないか」という懸念が生まれたのである。

 そして、同年9月にリーマン・ブラザーズが破綻すると、資金繰りが悪化した銀行から建設・不動産業界への融資がストップ。スペイン各地で行われていた建設工事は次々に中断され、買い手のつかない物件が大量に残ることとなった。

■銀行再編が破綻の引き金に
 これまで好景気を支えてきた不動産バブルが崩壊すると、スペイン経済全体が一気に失速、政府による大規模な景気刺激策は一定の効果があったものの、多額の財政出動を強いられ、財政赤字を膨らませる結果となった。同時に、スペイン政府は、バブル時代の無計画な融資が軒並み不良債権化し、経営が大きく圧迫されていた「カハ」と呼ばれる貯蓄銀行の問題にも頭を悩ませることとなる。

 結局、政府は2009年3月に「カハ・カスティーリャ・デ・マンチャ」を国有化。これを機に銀行の合併、再編が加速することとなったが、その一連の流れの中で生まれた「バンキア銀行」が、のちにスペインを破綻へ追いやることとなる。

■スペイン政府の決定的な“過ち”
 長い歴史を持つ老舗銀行「カハ・マドリード」を中心に7つのカハを統合して設立された「バンキア銀行」だったが、2012年5月にはやくも公的資金注入が発表され、黒字と公表されていたはずの2011年の収支が、実は30億ユーロもの赤字だったことが発覚すると、スペイン国民の金融機関への不信、国家への不信はピークに達した。
 
 政府は真実を隠し、本当のことは明かさないと悟った人々は預金を同じユーロ圏内の他国の銀行に移すようになっていった。そして、最終的にスペインは、ユーロ圏から最大1000億ユーロの支援を受けることに合意、事実上の破綻に追い込まれたのである。

 高城氏が長年の海外経験で目にしてきた、様々な経済危機の事例が取り上げられている本書だが、「スペイン危機」のケースは、「日本のバブル期との酷似」と同時に「政府の対応の拙さ」がことさら目立つ。
 様々な要素が重なって起こる経済危機への完璧な対処法などおそらくは存在しないのだろうが、将来、もし日本に経済危機が訪れた時、スペイン政府のように情報を隠すことで火に油を注ぐようなマネだけはやめていただきたいものである。
(新刊JP編集部)

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