デザインリサーチと呼ばれる、行動観察の手法をご存知だろうか。
昨今注目を集めている、大量のデータの中から消費者のニーズを解析する「ビッグデータ分析」に対して、「デザインリサーチ」は、限られた数の消費者の行動を追跡し、彼らの振る舞いや発言のなかから、本人が気づかないようなニーズを探り当てる手法だ。その「デザインリサーチ」の分野で世界的に活躍するヤン・チップチェイス氏の著書『サイレント・ニーズ――ありふれた日常に潜む巨大なビジネスチャンスを探る』(福田篤人/訳、英治出版/刊)が最近出版された。
現在フリーのコンサルタントとして活躍している著者は、ノキアを経て、世界的なデザインコンサルティングファームfrogで、グローバル市場調査・分析部門の責任者を務め、50ヶ国以上でデザインリサーチを行った実績を持つスペシャリストだ。
チップチェイス氏は今年数回来日して講演やワークショップなどを行ったが、筆者が参加した「ウォレット・マッピング」が面白かったのでご紹介したいと思う。
■財布の中身を全部見せて!?
ウォレット・マッピングは、始まりから衝撃的だ。チップチェイス氏は、まず参加者を数人のグループにわけ、その中から1人ボランティアを募り、「財布の中身をテーブルに広げてほしい」と依頼した。
ボランティアは戸惑いを見せながらも、言われた通り自分の財布の中身をテーブルに広げていく。そしてチップチェイス氏は「次のようなものを見つけてください。財布の中身のなかで、重要度の高いものと低いもの。あなたが持っていないけれど、その人が持っているもの。逆にあなたがいつも持っているのに、その人が持っていないもの。そしてその理由は?」と促す。
これには次のような効果が得られるという。
1つは「口で語られる以上に、持ちものは多くの情報を得られる」というものだ。単純に「財布に何が入っていますか?」と聞いても、すべてを答える人はいないだろう。だが、レシートやカードの種類など、その人が意識していないものまで「なぜ持っているのか?」と問われたとき、自分が気づかなかった本当の「理由」がわかる。そこにビジネスチャンスが潜んでいるというのだ。本書の表現を借りるなら「持ちものは人を表す」という。
もう1つは、「極端な行動を見つけやすい」というものだ。例えばチップチェイス氏が「キャッシュカードを持っていない人は?」「外貨を持っている人は?」などと尋ねたところ、実際にキャッシュカードを持っていない人がいた。そのような一見「常識に反する」行動を掘り下げていくことで、未来の行動を予測し、新しい商品やサービスをデザインする手がかりになるという。
■ビジネスチャンスを見つけ、自分の世界を広げる
『サイレント・ニーズ』には、財布を見せてもらう以外にもさまざまな手法が紹介されている。また、世界各国で実際に行った調査と、そこから得られた洞察・アイデアも豊富に記されている。ビジネスチャンスを探るための「ものの見方」を身につけるヒントとして読むこともできるが、彼が足を運んだ、特にさまざまな途上国での人びとの消費生活は新鮮に感じることが多く、読み物としてもとても魅力的だ。
起業を考えている人や、商品やサービスの開発に携わっている人、新たなビジネスチャンスを求めている人、自ら足を運んでデータを集めたいという人。読み手に応じて、様々な魅力や発見がある一冊である。
(新刊JP編集部)
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