第148回芥川賞・直木賞の贈呈式が、2月22日、東京・丸の内の東京会館で行われた。
今回、芥川賞を受賞したのは黒田夏子さんの『abさんご』(早稲田文学5月号)。直木賞は朝井リョウさんの『何者』(新潮社/刊)と安部龍太郎さんの『等伯』(日本経済新聞出版社/刊)の2作が同時受賞した。
75歳の黒田さんは同賞では史上最年長受賞、朝井さんは男性では戦後最年少となる23歳での受賞ということで多くの注目を集めている今回の芥川賞・直木賞。贈呈式冒頭の選考委員によるスピーチでは、芥川賞選考委員の島田雅彦氏が、『abさんご』のひらがなを多様した特異な文体を評して「最初はあの文体の中に暗号めいたものが記されているのではないかと警戒した。慣れるまでは漢字に変換しながら読んでいたが、そのうちにひらがなをひらがなのまま受け止めるようになると、漢字では見えなかった秘密めいた意味が浮かび上がってくる気がした」と賛辞を送った。
直木賞選考委員の渡辺淳一氏は、朝井さん、安部さんの力量を評価したうえで、「直木賞はさまざまな人が受賞してきたが、かなりの人が消えていっている。消えないためには自らの欲望や好奇心をギラつかせていてほしい。品よく落ち着いた人は消えます」と忠告しつつエールを送った。
受賞者の挨拶で、黒田さんは「長い間、賞とか出版はなかなかことがうまく運ばなかったが、今回だけは偶然が味方した。何十年も世間一般はもちろん、ごく身近な方々にも“一体この人は何をしているんだろう”とよくわからない老人だと思われてきたが、今回の受賞でその居心地の悪さが少し解消されて、ありのままに近づけたかなというのが本音。これをきっかけに、自分のありのままに近いところで、今まで通り歩き続けたい」と、つつましやかに述べた。
学生の就職活動を題材にして受賞作を書ききった朝井さんは「人間は複雑な生き物。そんな複雑な人間が生きている世界を暴いていくようなつもりで書いていきたい」と今後の抱負を語り、戦国時代に生きた長谷川等伯をモチーフにした安部さんは「この受賞はまさに長谷川等伯がもたらしてくれたもの。この作品を書くために無心に向き合って、作品にしようと格闘を繰り返すうちに自然と僕の力量を上げてもらった」と、受賞の喜びをあらわしていた。
(新刊JP編集部)
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