12月に入って、都内もかなり冷え込むようになり、外出するのがおっくうな季節がやってきました。我々人間にとっても辛い冬ですから、外で暮らす動物たちにとってはより過酷な時期に違いありません。
『さよなら、猫よありがとう』(猫咲スノー/訳、ウインク・パブリッシャーズ/刊)は、韓国の詩人、イ・ヨンハンさんがソウル郊外の野良猫たちの姿を、独特の鋭い視点で切り取ったフォトエッセイ。本書からは我々が思っている以上に外敵が多く、困難な野良猫の生活が浮かび上がってきます。
どうやらそれは、冬の寒さだけではないようです。
■氷点下20℃にもなるソウルで暮らす
本書に掲載されている猫たちの写真で特に目を引くのが、身を切るような北風から子猫たちを守るべく身体を丸める母親と、母の後ろに寄り集まって冬をやり過ごそうとする子猫たちを写したスナップです。
全身が毛に覆われているとはいえ、韓国の冬は氷点下20℃にもなる過酷きわまりないもの。こんな環境でも、野良猫たちには暖炉もヒーターもなく、できることといったら、少しでも暖をとれる毛布や発泡スチロールなどを求めてゴミ捨て場をさまようか、何匹かで身を寄せ合ってじっと耐えるかだけ。
あたたかい場所が大好きな猫ですが、野良猫たちには互いの体と体温が唯一の暖炉なのです。
■「猫は不吉」の偏見と暴力
猫好きが多い日本とは違い、韓国では「猫は不吉」「猫は人間に害を与える」といった偏見がまだまだ根強く残り、猫の虐待も少なくありません。
ヨンハンさんが雪遊びをしている野良猫を撮影しようとした時、こんな場面に出遭ったそうです。
近くで雪かきをしていた老人がやってきて、ヨンハンさんに「そこで何をしている?」と尋ねました。ヨンハンさんが「猫の写真を撮っているんです」と答えると、老人は「猫はみんな殺してしまえ!」と言い、猫に向かって雪かき用のスコップを振りかざしました。それは、単に猫を追いやろうというものではなく、明らかに殺してしまおうというものだったそう。
野良猫一匹であっても命があります。人間にはそれを好きに殺したり生かしたりする権利はないはずですが、残念ながら多くの人はそのことを忘れているとヨンハンさんはいいます。
人間が持つ偏見や暴力とも野良猫たちは戦っていかなければならないのです。
ここで描かれているのは、ふわふわとした毛に包まれ、温かい日なたで居眠りする飼い猫ではなく、厳しい環境や偏見、暴力に耐えながらたくましく生き抜こうとする野良猫たちです。本書が韓国でベストセラーとなり、映画(「Dancing Cat」)の題材となったのは、彼らの真の姿が描かれているからかもしれません。
本書を手に取ったら、猫好きの人に限らず全ての人が心を揺さぶられ、勇気をもらわずにはいられないはずです。
(新刊JP編集部)
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