本年度上半期、江戸時代にたくましく生きる女性をいきいきと鮮やかに描いた『つまをめとらば』で第154回直木賞を受賞した著者による、受賞後、第一長篇。
本作はミステリー要素あり、男女の心理劇あり――の新たな時代小説に果敢に挑戦した力作だ。
主人公の信郎は「名子(なご)」である。江戸幕府開闢(かいびゃく)時に、武家の身分より領地をとって農民になった名主の、昔の家臣が「名子」だ。
信郎は、陣屋の元締め手代に上り詰め、土地の人間の敬意を一身に集めても、彼にとってはそこは、励み場(はげみば=己の持てる力を注ぎ込むのに足りる場所)、ではなかったのだ。
彼は江戸に出て勘定奉行所の下役になり、真の武家を目指すことに。そして、妻の智恵はそれを支えるのだが――。
己にとって、「励み場」とは何か、「人生」とは何か、「守るべきもの」とは何か、を深く問う物語である。

書名:励み場著者:青山文平発行:角川春樹事務所定価:1600円+税