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すべての印刷業界人に捧げるマンガ

印刷ボーイズは二度死ぬ

 本書『印刷ボーイズは二度死ぬ』(学研プラス)は、印刷業界の「あるある」ネタを盛り込んだマンガだ。前作『いとしの印刷ボーイズ』(同)には印刷、出版、広告業界人から共感の声が寄せられ、版を重ねた。第2弾は、ストーリー性を加え、さらにパワーアップしている。

印刷営業マンの泣き笑い

 著者の奈良裕己(ゆうき)さんは、マンガ家・イラストレーター。印刷会社、広告制作会社の営業マンを経て2012年に独立。16年から「GetNavi web」で、マンガ「今日も下版はできません!」を連載。連載をもとにした書籍が、このシリーズだ。

 ナビ印刷営業部の刷元(すりもと)正ら営業マンの泣き笑いの日々が描かれている。作中に「下版」ということばがよく出てくる。印刷用のデータを製版側から印刷側に回すことを、出版や広告業界では「下版」と言うが、新聞業界では「降版」と呼ぶ。

 新聞社では新しい情報を盛り込むため、普通2回ないし3回の降版時間が設定されている。販売店までの輸送時間から逆算して、厳しく時間を守ることが求められる。

 ところが、書籍の場合、最初のゲラに何回も手直しが入るのが常で、なかなか下版できない。マンガ「今日も下版はできません!」のタイトルはこれに由来する。

 とは言え、それにも限界がある。本書でも製版部や印刷工場、著者や出版社とのギリギリのやりとりが登場する。

実物との色の差が......

 人気ファッションデザイナーの新作バッグのパンフレットの印刷を受注するが、「こんな色じゃないわ!」と何度も突き返される。「鳥たちが羽ばたきたくなるような青空」とか「草原で寝そべって眺めていたい空」とか、どうしたらいいか分からないような抽象的な注文がつくのだ。

 そもそもデジタル画像ではR=レッド、G=グリーン、B=ブルーという光の3原色で色を表現するが、印刷ではC=シアン(青)、M=マゼンタ(赤)、Y=イエロー(黄)、K=ブラック(黒)の4色で表すので、その変換の違いで色調が変わる。色調見本もない中で、さすらいのPD(プリンティングディレクター)の力を借りて、なんとか下版する。すると、デザイナーのイメージ通りの「青空」が浮かび上がる。

 「ここまで色調いじっちゃうと実物と差が......」

 それ以上は禁句だ。

 こんなストーリーを通じて、読者は印刷の何たるかを知ることができる。また欄外には「印刷豆知識」「印刷体験談」「印刷川柳」、合計116のコンテンツを用意、さらに深く印刷の世界へ誘う。

 へえー、と思った「印刷豆知識」にはこんな話題が。「インキを使用しない印刷術」を、2019年に京大の研究チームが発表したそうだ。光の反射によって見える「構造色」を利用する技術で、コガネムシやクジャクの羽みたいに独特の光沢がある構造色は、角度によって見える色が変わる。環境にやさしく退色もない。どんな色も再現可能のスゴイ技術、と紹介している。

受注産業の悲哀

 ところで、これまで印刷業界をテーマにした小説やマンガはあまりなかったように思う。印刷は究極の受注産業だ。クライアントの意向が徹底的に反映されるため、その内部が外に伝わることがなかったからだろう。ある意味、無力感があったかもしれない。

 印刷会社の大手は近年、印刷から派生した技術を生かした新しい事業分野に進出し、売り上げを伸ばしている。しかし、根っこの印刷の部分では受注産業の悲哀が残っているようだ。奈良さんは、本書の「はじめに」で、多くの「印刷ボーイズ」に出会い、時に怒られ、ホメられ、共に笑い、泣き、深夜残業や徹夜もして、印刷物を作ってきたのです、と書いている。そんな戦友であり同志だからこそ、「ただの業界あるあるマンガにだけはしない」と誓ったという。その志は十分達成されたと思う。

 本書の表紙、扉などは、わざと裁断ミスをしたような体裁になっている。ミスに何度も泣いた奈良さんや「印刷ボーイズ」の想い(恨み?)を込めたデザインなのだろう。

 BOOKウォッチでは、印刷会社を舞台にした安藤祐介氏の小説『本のエンドロール』(講談社)を紹介している。印刷業界の「お仕事小説」を超えた感動の書だ。

 
  • 書名 印刷ボーイズは二度死ぬ
  • サブタイトル業界あるある「トラブル祭り」2
  • 監修・編集・著者名奈良裕己 著
  • 出版社名学研プラス
  • 出版年月日2019年10月29日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数A5変型判・154ページ
  • ISBN9784054067424

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