「余命1年の無彩病――日常は、ある日突然崩れ落ちた。」「美しく描かれる圧倒的悲恋」と帯にある。優衣羽(ゆいは)さんの『僕と君の365日』(ポプラ文庫ピュアフル)は、帯のコピーもタイトルも、ストーリーの大筋を明かしている。
読者は、結末を大まかに予想したうえで読み進めていくことになる。しかし、途中にヒントが散りばめられつつ、ラストに用意された"ひねり"に注目である(ヒントで"ひねり"を察する読者もいると思われるが)。
毎日を無難に過ごしていた高校二年生の僕(蒼也)は、進学クラスから自ら希望して落ちてきた君(緋奈)と隣の席になる。その矢先、僕は「無彩病」にかかっていることを知る。
「無彩病」とは、実際には存在しないフィクションの病であり、次のように設定されている。「十年前からはやり出した原因不明の病」「はじめはある一色から色を認識できなくなり、やがてすべてがモノクロに変わり、一年ほどで死に至る」「発症率は十万人にひとり」。
僕は担当医師より「人間の目の網膜には錐体細胞というものがあります。この細胞は特定の波長を感じることで脳に情報を伝え、今、私たちが見ている世界の色を形作っているんです」「この錐体細胞が少しずつ死滅していき、最後に世界は灰色になり、やがて謎の死を迎える。それが、無彩病です」と説明を受ける。
それでもなお、視覚異常が死に直結する理由などは不明。「無彩病」は、避けられない死の脅威で人々を恐怖に陥れる、得体のしれない病と言える。
「これから先、学校に来る必要はあるのだろうか。どうせ死ぬんだから、わざわざ勉強なんてしなくてもいいじゃないか」と自暴自棄になっていたある日、僕が「無彩病」であることを君に知られてしまう。
どうしようもない現実に腹を立て、関係ない君に八つ当たりする僕に、君は驚きの提案をする。「あなたが死ぬまでの一年間、私はあなたの彼女になるわ」――。
こうして僕と君の「契約のような」365日間の恋がはじまり、1/365日から365/365日までカウントダウンされていく。
「正直、今までなにもかもどうだっていいと思ってた。いつ死んでもいいと思ってた。......でも、俺やりたいことがたくさんできたよ」
「君が教えてくれた。誰かを想うことがこんなにも素敵だってこと。当たり前に来る日常が、こんなにも尊いものだということ」
365/365日。僕がこの日を迎えるまでに、色彩は失われ、死への恐怖はやわらいでいく。刻々と迫りくる死を念頭に置くことで、かえって僕は、生きることを切望し、感謝するようになる。「さよならの時間が目の前に迫っている」なか、最後に僕が見た景色。約3ページに渡るその描写が美しく、鮮烈だった。
著者の優衣羽さんは、神奈川県出身、横浜市在住。2018年ピュアフル小説大賞で最終候補となり、本作でデビュー。評者が何より驚いたのは、優衣羽さんは現役大学生であること。20歳前後の著者が0から構成を練り、約300ページを書き上げた過程を想像すると、大変な労力だっただろう。プロフィールにある「これまで生きていく上で必要にならないであろう知識ばかりを勉強してきたが、役に立ってよかった」の一文がなんとも学生らしく、新鮮だ。
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