2019年9月20日から日本で開催されているラグビーワールドカップは、日本全国で開催されている。東京などのほか、札幌、釜石(岩手県)、豊田(愛知県)、神戸、福岡、大分、熊本など地方でも行われるため、日本全体が盛り上がるだろう。
そんな時宜に合うように刊行されたのが、本書『「地元チーム」がある幸福』(集英社新書)。著者の橘木俊詔さんは京大教授などを経て、現在、京都女子大学客員教授(労働経済学)。著書の『格差社会』(岩波新書)で知られるが、『プロ野球の経済学』などスポーツ関連の著作もある。
本書の帯に、橘木さんの主張が明解に書いてある。
「遠くのオリンピックより、近くのチームの方が大切だ!」
プロスポーツの振興が、地方の活性化に大いに貢献するという主張を検証すべく、プロ野球の地方移転の効果、地方大学野球部の躍進、Jリーグの地方分散、バスケットBリーグの地方展開などを具体的に取り上げている。
巻頭に日本のプロスポーツチームの一覧が、日本地図上にプロットされているが、例えば、青森県にはヴァンラーレ八戸(サッカーJ3)、青森ワッツ(バスケットB2)、東北フリーブレイズ(アイスホッケーアジアリーグ)、と3つのプロスポーツチームがある。隣の秋田県にも秋田ノーザンハピネッツ(B1)、ブラウブリッツ秋田(J3)があるなど、複数のプロスポーツチームがある都道府県は珍しくない(カテゴリーは2019年8月時点)。
評者はたまに故郷の秋田県を訪れるが、人口減少率全国一の秋田県では、この二つのチームが今や県民の精神的な支柱になっている。勝っても負けても大騒ぎなのだ。
本書で橘木さんは経済学者らしく、プロスポーツが地方にもたらす経済効果(ラグビーワールドカップ日本大会では4200億円)を中心に説明している。もちろん、経済効果はあるだろうが、プロスポーツチームの存在そのものが、地方のコミュニティーを支えていることを評者は秋田の例で実感した。
プロスポーツチームの地方分権が進む現状から紹介したが、本書の構成としては、第1章を「スポーツの中央集権」が生み出す功罪、に当てている。
そして、2020年東京オリンピックこそ「悪しき中央集権」の象徴、箱根駅伝競走の功罪、東京発スポーツメディアの功罪と筆を進めている。
東京一極集中の日本社会を変革するツールとして、プロスポーツチームの地方分権化という本書の主張は、受け入れやすいものだろう。
スポーツ以外の政治、経済、文化の分野での地方分散化政策の要点も書かれている。入口はスポーツだが、出口は東京一極集中の打破という大きな目標を掲げた「警世の書」である。
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