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讃岐うどんと北関東のうどんの違いはなぜ?

麺の科学

 「科学をあなたのポケットに」が発刊のことばになっている講談社のブルーバックスシリーズ。数学や物理、地震や宇宙論まで、さまざまなジャンルでお世話になってきたが、本書『麺の科学』ほど、実用的で役に立つものはないと言っていいだろう。

日清製粉の研究者から大学教授に

 なにしろ「科学の力で麺をおいしく」食べる方法をいくつも紹介しているのだから。著者の山田昌治さんは工学院大学先進工学部応用化学科教授だが、経歴が少し変わっている。1977年京都大学工学部化学工学科を卒業、同大学院修士課程修了後に秋田大学鉱山学部資源化学工学科助手を経て、88年日清製粉に入社し、パスタなど食品の研究開発に携わってきた。2010年から現職だが、テレビにも出演し、さまざまな麺の調理法について実演しているから、ご覧になった方も多いだろう。

 本書は第1章で、小麦粉、蕎麦粉、米粉、片栗粉、タピオカといった麺をつくる粉の科学について解説している。特に、小麦粉については多くのページを割き、「食感のもとになる小麦デンプン」「麺の弾力や香りは小麦タンパク質から」「小麦粉の脂質も香りの素に」など、小麦粉のさまざまな要素が麺のおいしさの違いとなることを解説している。

オーストラリア産の小麦が讃岐うどんの主流

 第2章では、各地のうどん、蕎麦、中華麺、パスタを取り上げている。讃岐うどんと北関東のうどんの違いが面白かった。讃岐うどんが1980年代以降ブームになると、地元産の小麦では賄うことができず、オーストラリア産の小麦(ASW)を使うようになった。ASWの食感は適度な弾力性と歯ごたえがあり、比較的タンパク質含有量が高いため、取扱いが容易だったことから、たちまち讃岐うどんの主要原料となった。

 しかし昔ながらの野性的な味を求める声も強く、2000年に「さぬきの夢2000」という讃岐うどん専用小麦が開発された。うどん通に熱狂的に受け入れられたが、生産量が少ないため、実際にはASWを使う「産地偽装」事件も起こった。山田さんはこれがきっかけでうどんの風味に学術的な関心をもったという。

 小麦粉は吸湿性があるため、小麦粉の温度、気温、湿度によって加水量を調節しなければならない。その分製麺・製パンはアートの部分がある、と書いている。

 「さぬきの夢2000」はタンパク質含有量が少ないため、水加減が難しい。現在も讃岐うどんの主流はASWで、「さぬきの夢2000」は地粉という位置づけで特定の製麺所に限られるそうだ。

地粉でつくる北関東のうどん

 一方、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県など北関東のうどんは、1960年代から「農林61号」を使っている。ASWに比べると皮がもろいため、製粉時に混入し、色が少しくすむ。それによって独特の風味も出る。

 山田さんらの研究により、この風味は小麦粉中の脂質を構成する不飽和脂肪酸が分解され生成する、アルデヒド類に起因するものだとわかっている。

 「農林61号」が品種交代の時期に来ており、「さとのそら」などの後継品種が開発されている。色のくすみが少なく、つるっと滑らかな食感というから、北関東のうどんの味も近い将来、変わるかもしれない。

重曹を加えてゆでるとおいしくなる

 さて、麺をおいしく食べる方法を紹介していると冒頭に書いたが、いくつかさわりを。

 ○吹きこぼれを防止するには新品の灰皿をひっくり返して底に置く(小さな気泡をまとめるため)
 ○重曹を加えてゆでると、安い素麺でも高級素麺の味に近づく(ゆで溶けを防止するため)
 ○即席中華麺は2分後にかきまぜると食感がよくなる
 ○市販の日本蕎麦乾麺は10分間水に浸してからゆでると風味がよくなる

 実験を通して科学的な根拠も明らかになっている。

 小麦は高原の砂漠という非常に厳しい環境で進化した植物であるため、他の穀物にはない特徴、つまり空気中から得た水分を吸収しやすい構造、窒素分を貯蔵タンパク質という形で溜めこむ性質のものになったという。そのタンパク質の性質によって、麺類にした時には弾性のあるものになった。

 食べ物屋の話題と言えば、ラーメン、うどん、蕎麦が多いのも、日本人が米よりも麺類にはまってしまったからだろうか。

 米のご飯に比べて、麺の多様性が本書を読んでさらに印象深くなった。

  • 書名 麺の科学
  • サブタイトル粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ
  • 監修・編集・著者名山田昌治 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年7月20日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・238ページ
  • ISBN9784065167458
 

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