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家族の真の絆を描いた、瀬尾まいこデビュー作

卵の緒

 今年(2019年)4月、瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)が本屋大賞を受賞したのは記憶に新しい。

 毎年この季節になると「新潮文庫の100冊」「カドフェス」「ナツイチ」など、大手出版社による文庫フェアが始まる。中でも「祝本屋大賞!」の帯が目にとまり、瀬尾まいこさんの『卵の緒』(新潮文庫)を手に取った。

 本書『卵の緒』は、瀬尾さんのデビュー作である「卵の緒」と「7's blood」の二作が収録されている。17年前に書籍化された作品だが、現在活躍する作家の原点に返るのも面白そうだ。

「僕は捨て子だ。」

「僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。」

 「卵の緒」は、こんな衝撃の二文ではじまる。小学四年生の僕(育生・いくお)は、捨て子疑惑を抱きながら、カラッとした性格ととぼけた会話が持ち味の母さんと二人で平穏に暮らしている。

 本作の土台にあるのは、母さんと僕の何気ない日常。そこに、母さんに恋人ができる、恋人を家に呼び三人で食卓を囲む、苗字が変わる、家族が増えるなど、僕の家庭、家族に関わる転機が重なっていく。

へその緒の代わりに箱に入っていたのは...

 「へその緒は、お母さんと子どもを繋いでいるもの」と学校で教わった僕は、どきどきしながら「へその緒見せて」と母さんに言った。すると、母さんは紅白饅頭の箱を持ってきた。僕がゆっくり開けてみると...入っていたのは卵の殻だった。

 「どういうこと?」とパニックになる僕に、「育生は卵で産んだの」とけろりとした顔で母さんは言った。「親子の証し」であるはずのへその緒がないことに、僕はショックを受ける。

 「本当バカね。証しって物質じゃないから目に見えないのよ」「本当の親子の証しを見せてやるとするか」と言い、母さんは腕まくりをして、僕を思いっきり抱きしめた。

 捨て子疑惑の真偽はハッキリしないまま、僕は小学六年生になった。新しい苗字になり、「母さんのおなかが少し大きくなり始めた」頃、母さんは「すごく面白い話してあげよっか」と切り出す。長年晴れることのなかった捨て子疑惑。ついに、母さんの口から真実が語られる時が来た。

「家族」への憧れ

 「7's blood」は、高校三年生の七子と、父親の愛人の子である小学六年生の七生の物語。父親は他界し、七生の母は刑務所に入り、七子の母は長期入院。初めて会った異母姉弟は、ぎこちなく二人の生活をはじめる。

 本書に収録されている二作は、ともに家族の物語であり、父親が不在である。あとがきを読み、瀬尾さんの「家族」に対する思い入れが伝わってきた。

「私には父親がいない。それはたいして重要なことではない――中略――。けれど、『家族』というものに憧れがあった。手に入らないとわかっているからこそ、焦がれていた。」

「心地よい関係に身を置くことも、それを描き出すこともとても楽しい。そういうものを少しでも作り出せたらなと思います。」

 片親、血のつながりがないなど、本書の登場人物の置かれた家庭環境は厳しい。それでも、そうした事実を越えて、家族が真の絆でつながることはできると、あたたかく、優しさがにじむ瀬尾さんの文章は教えてくれる。

 瀬尾まいこさんは、1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。2001年に「卵の緒」で坊ちゃん文学賞大賞を受賞し、02年に単行本『卵の緒』(マガジンハウス)でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞。

  • 書名 卵の緒
  • 監修・編集・著者名瀬尾 まいこ 著
  • 出版社名株式会社新潮社
  • 出版年月日2007年7月 1日
  • 定価本体460円+税
  • 判型・ページ数文庫判・216ページ
  • ISBN9784101297729
 

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