本書『ヒト夜の永い夢』(ハヤカワ文庫)がSF小説としては珍しく話題になっている。著者の柴田勝家さんは、成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。在学中の2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。
ペンネームは敬愛する戦国武将・柴田勝家にちなむそうだ。ネットで近影を拝見したが、堂々たる体躯にみごとな髭面。戦国武将を思わせる風貌だった。
作品の方も奇想天外、人を食った設定だ。昭和2年、稀代の博物学者・南方熊楠のもとへ超心理学者の福来友吉が訪れる。福来は明治43年のいわゆる「千里眼事件」で学会を追放された変わり者だ。
福来の誘いで学者たちの秘密団体「昭和考幽学会」へ加わった熊楠は、新天皇即位の記念事業のため、思考する自動人形を作ることになった。
熊楠が研究する粘菌を使ったコンピューターを組み込んだ「少女」は、「天皇機関」と名付けられるが、「2・26事件」の混乱へとストーリーは展開する。
登場人物が豪華だ。孫文、江戸川乱歩、北一輝、宮沢賢治、石原莞爾......。柴田さんはあるインタビューに答え、宮沢賢治と南方熊楠に交流があったという設定は、パズルのように時系列を検討して考えたという。
SFだからなんでもありと思われるが、昭和史と昭和の文化史を押さえた上のストーリーは「伝奇ロマン」風だが、説得力を持っている。
俳優の故西村晃さんの父、西村真琴も重要な役どころで登場する。西村真琴は「學天則」という機械仕掛けの人形を実際に開発し、京都博覧会に展示したことでも知られる。終盤、「學天則」が思わぬ形で「天皇機関」と対峙する。
「天皇機関」となった少女が魅力的だ。果たして何なのか? 人間なのか機械なのか、生きているのか死んでいるのか? 波乱の展開の中に静かで思弁的なテーマが内包されている。柴田勝家はやはり只者ではない。
本書は書き下ろしの作品で、文庫として書籍化された。
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