ダンケルク、パリ、バルセロナの3都市。ダンケルクはフランス・ベルギー国境、パリは内陸、バルセロナはスペイン西東部にある。ダンケルクから見れば、パリ、バルセロナはかなり南西にあるのではないか。そう思うのが普通だ。だが、ほぼ南北の直線上に並んでいる。東経2度から少し東に振れた子午線の上だ。この3都市の距離が1メートルを決める際に使われた。
本書『単位と記号の秘密がわかる本』(学研プラス)はタイトル通り、単位に的を絞った解説本だ。単位についての解説本は味も素っ気もないものになりがちだ。本書は違う。単位の由来やそれにまつわるエピソードが盛り込まれていて、楽しい。
編集者は科学雑学研究倶楽部。同倶楽部名で出ている本は、脳科学や進化、数学、物理学など幅広い。専門家ではない人たちが一般人にも分かるように編集しているのだろう。図解が多いのもその辺への配慮からに違いない。
理系科目の計算問題には単位が必ず付いてくる。高校にもなると、その種類は増える一方になる。「とても煩雑で紛らわしい」。そんな思いをした人は多いはずだ。だが、逆を考えてほしい。とりわけ高校物理。単位さえ理解すれば、ほぼ理解できるようになる。単位が方程式を示しているためだ。
まずは初歩から。距離(s)・速度(v)・時間(t)の関係は「s=vt」であるのはみんな知っている。この方程式を単位で表すと、「m(距離=メートル)=m/s(速度=メートル毎秒。sはここでは距離ではなく、時間の単位・秒を表す)×s(秒)」となって、等式が成り立っていることが分かる。
今度は加速度(a)を単位から理解してみる。単位はm/s²(メートル毎秒毎秒)。
速度は単位時間当たりの移動距離(距離÷時間)で表されるが、一般に電車でも自動車でも速度は一定ではなく、速くなることもあれば、遅くなることもある。このような速度の変化率のことを加速度という。つまり単位時間あたりに速度が変化する割合(速度の差÷時間)のことでm/s²(メートル毎秒毎秒)となる。
以上のように説明する。つまり加速度(m/s²)は速度(m/s)を時間(s)で割ったものになって、式は加速度の単位表記に一致するわけだ。
「力(F単位はN)」や「仕事(W単位はNm)」についても同様だ。仕事は質量×距離でN・m、加速度を使うならF(N)は質量(㎏)×加速度(m/s²)なのでkg・m²/s²となる。
単位から出発して運動方程式(F=ma)の調整を試みることで相対性理論の門もたたける。F(N)を無限大に取ると、a(m/s)も無限大になる。アインシュタインは、速度はすべて観測者を考慮に入れた相対的なものとし、速度は光速を超えることができない――と前提に置いているので、Fが無限大であるとき、m/sは光速(c)に限りなく近くなる。このため、Fが無限大の時の運動方程式は、cを漸近線とする双曲関数か三角関数の類いであると予想されるだろう。現代は答えが既に導かれているので、高校生の知識でも調整作業は理解できないことではない。また、運動方程式に距離と時間を入れ時空を考えたければ、速度=距離/時間に置き換えると道が付く。時空が伸び縮みするさまも想像できるような気がする。
本書は、単位が方程式を表していることのほか、冒頭で触れたように、紹介される単位導入の経緯や変遷も面白く、紛らわしい単位表記を整理するのに有用だ。
ただ一般向けを意識しすぎたのか、誤植が散見されるのは残念だ。メートルの項で長さの単位の統一をタレーランが呼びかけたのは「1790年」だし、気圧の項目で「1000分の1」を表す接頭語の「m」が「100分の1」と説明されている。改訂版での修正や正誤表を望みたいところだ。
科学雑学研究倶楽部が編集したシリーズには『脳と心の秘密がわかる本』『数学のすべてがわかる本』『相対性理論のすべてがわかる本』『人類進化の秘密がわかる本』など多数ある。
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