九州を代表する焼酎メーカー、霧島酒造(本社・宮崎県都城市)が九州の食文化を紹介するガイドブックの刊行を始めた。第一弾の本書『九州の味とともに 宮崎』(スペースシャワーネットワーク)は、地元宮崎の郷土料理19品を紹介している。
宮崎の郷土料理として最近テレビでも取り上げられるのが、冷や汁だ。冷たいみそ汁をごはんにかけたぶっかけ汁で、暑い夏に農家を中心に食べられてきた家庭料理だ。
みそとアジやカマスなどのあぶった魚の身をほぐしたものを合わせ、すり鉢ですりつぶして冷や汁の素を作る。それを冷えた出汁や冷水で溶き、きゅうり、豆腐、大葉、ゴマなどを入れて熱いごはんにかけて食べる。
本書では、宮崎市の「ふるさと料理 杉の子」の冷や汁の作り方を紹介している。頭とワタを取り除いたイリコをていねいにすりつぶして綿のようにふわふわにするのが店の味の秘訣のようだ。
店の大将、森松平さんが旧薩摩藩でも食べられていたという話を披露、森さんの娘で女将の前田省子さんによると、地域によって切り干し大根、焼きナス、落花生を入れるところがあり、家ごとに違う家庭料理だという。「見た目は控え目で素朴だけど、中身はしっかりした料理。それって、宮崎県人の県民性につながるような気もしています」と結んでいる。
チキン南蛮のルーツが昭和30年代に宮崎県延岡市で営業していた洋食店にあったとは知らなかった。揚げた鶏肉に甘酢をかけて食べるまかない店だったという。その「ロンドン」という店で学んだ二人の料理人がそれぞれの店で提供したのが始まりで、いまや全国区の料理になった。
本書では二人の跡をつぐレストランチェーン「おぐら」と「元祖チキン南蛮 直ちゃん」を紹介している。タルタルソースをかけるのが前者、かけないのが後者だ。
本書にはこのほか、釜揚げうどん(宮崎市)、地鶏の炭火焼き(同)、旭蟹(同)、レタス巻き(同)、焼きかき(高鍋町)、こなます(日向市)、めひかりの唐揚げ(延岡市)、かっぽ鶏(高千穂町)、わくど汁(椎葉村)、菜豆腐(同)、おでん(都城市)、がね(同)、かつおめし・かつおのタタキ(日南市)、ごんぐり煮(同)、魚うどん(同)、飫肥の天ぷら(同)、かにまき汁(同)を取り上げている。どれも豊富なカラー写真で料理と店を紹介している。地元でなければ手に入らない食材も多いので、食べたいと思ったら宮崎に行くしかない、という訳だ。巻末には掲載店の一覧も載っている。
評者はこれまで宮崎には一度行ったきりだが、本書を読み、宮崎を素通りしたことを後悔している。これほど多彩な味があるとは知らなかった。
霧島酒造は2006年から、「九州の味とともに」というプロジェクトを行っている。九州・沖縄の伝統料理、郷土料理、家庭料理を探求する活動を続け、さまざまな媒体で紹介してきた。九州各県タウン誌での連載は140回になったという。本書も宮崎を皮切りにシリーズ化する予定。
九州の焼酎メーカーには出版など独自の文化活動をしているところが少なくない。焼酎が日本酒と並ぶ日本を代表する酒となった背景には、そうした取り組みの成果があるかもしれない。
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