神奈川県鎌倉市に本社を置く唯一の上場企業、カヤックは、株式会社だが「面白法人」と名乗り、サイコロの目で給料の一部を決めるなどユニークな会社として知られる。その代表取締役CEOの柳澤大輔さんが『鎌倉資本主義』(プレジデント社)という本を書いた。
カヤックは1998年に柳澤さんら3人の創業メンバーで合資会社としてスタート、2002年に鎌倉にオフィスを移転、05年に株式会社となり、14年に東証マザーズに上場した。ウェブサービス事業やソーシャルゲームの企画開発などが中心で、300人いる社員の9割がデジタル領域のクリエイターだという。
創業メンバー3人は学生時代の仲間で、誰も鎌倉出身でなかったが、「いつか鎌倉に住んで、鎌倉で働こう」と鎌倉を選んだ。ここ数年は主要拠点を横浜に移していたが、18年11月に新しいオフィスが完成して、多くの社員が鎌倉に戻ってきた。
「面白いコンテンツをつくるには、社員が面白がらなければならない」というのが社風。そのために「評価をしない評価制度」名付けて「サイコロ給」という制度を導入した。基本給に加えてプラスアルファがサイコロの目で決まるものだ。たとえば月給30万円の人が6を出すと、30万円×6%で1万8000円が加算される。人の評価を気にしていては楽しく働けないという考えからはじめた。
また職住近接のライフスタイルを勧め、鎌倉に勤務し、鎌倉市・逗子市・葉山町に住む社員には「鎌倉手当」という住宅手当を支給している。
鎌倉をもっと元気な街にと、5年前にカヤックをはじめ鎌倉に拠点を置くベンチャー企業の経営者で地域団体「カマコン」を立ち上げた。メンバー150人が毎月1回、定例会を開き、さまざまな提案の中からプロジェクトが生まれた。
そして昨年(18年)4月にオープンしたのが「まちの社員食堂」。鎌倉で働く人たちが、朝食、昼食、夕食を気軽に利用できる店だ。29社が会員企業として加わる。鎌倉市内で働く人は誰でも利用できるが、会員企業の社員は、食券機の食券ボタンに社名がクレジットされ、定価から割引になる。メニューは地元の飲食店や料理人に週替わりで提供してもらっている。36店舗が参加し、個性的な料理が味わえると、会社の垣根を超えたコミュニティースペースになっているという。
このほかにも、鎌倉で働く人が優先的に利用できる「まちの保育園」という企業主導型保育事業、鎌倉には映画館がないためカフェやレストランで好きな映画を上映する「まちの映画館」、鎌倉での就労を増やすために企業の人事部が合同で活動する「まちの人事部」が実現した。このシリーズはさらに「まちの社員寮」「まちの大学」「まちの保健室」「まちの本屋さん」などを検討しているという。
「カマコン」での議論の中で生まれてきたのが「地域資本」という考え方だ。次の3つの資本で構成される。
・地域経済資本 財源や生産性 ・地域社会資本 人とのつながり ・地域環境資本 自然や文化
この3つの資本をバランスよく増やしていくことが人の幸せにつながると柳澤さんは考える。そのために企業、行政、NPOといった地域のステークホルダー(利害関係者)が一緒になって取り組む。短期的な経済合理性だけを追い求めるのではなく、「地域資本という新しい価値を新しいモノサシで測ることによって、より持続的な成長を目指す」という。
鎌倉で発信しているから「鎌倉資本主義」と呼んでいるが、さまざまな場所ごとの地域資本主義が発信される社会になれば、と柳澤さんは期待している。
実際、「カマコン」の手法に共鳴した地域を応援している。福岡県の「フクコン」、東京都世田谷区の「セタコン」、福井県鯖江市、茨城県水戸市など、全国20カ所に広がったそうだ。
こうしたさまざまなアイデアが生まれる土壌として、カヤック独特のブレスト(ブレインストーミング)文化があるようだ。2つのルールがあるという。
・人のアイデアに乗っかる ・とにかく数を出す
カヤックでは年に二度、社員全員で合宿をしてブレストをしているそうだ。
カヤックの行動指針「何をするか、誰とするか、どこでするか」は、地域資本主義を構成する3つの資本にも対応しているという。 カヤックでは移住したい人と移住を受け入れたい地域をつなぐ「SMOUT(スマウト)」というサービスをはじめた。また定住でも観光でもなく、その地域を年に数回訪れ、なんらかの中長期的な関係をもつ「関係人口」を数値化し、可視化することにもトライしているという。鎌倉だけでなく、全国に元気のある地域が増えることが、新しい地域資本主義の隆盛につながるからだ。
イベント頼みの「町おこし」「地域おこし」に疲弊した地方の人に、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?