2014年の『満願』(山本周五郎賞)と15年『王とサーカス』が、それぞれ3つの年間ミステリランキングで1位になり、史上初の2年連続三冠を達成した米澤穂信さん。いま最も注目されるミステリ作家の一人だ。本書『本と鍵の季節』(集英社)は、2年ぶりの新刊で、ほろ苦い青春の味がする短篇集だ。
舞台は高校の図書室。図書委員の2年生、堀川次郎が主人公。同じ図書委員の松倉詩門は、快活だが皮肉屋の側面もある。二人は利用者のほとんどいない図書室で当番を務めている。
短篇「913」はこんな設定だ。ある日、引退した3年の女子から自宅の金庫の鍵を開けてほしい、と二人は頼まれる。以前ちょっとした暗号を解いたことがあったからだ。松倉は本棚に並んでいた4冊の本に手がかりを見出した。『日本の観光・世界の観光 「旅行代理店」を超えて』、『確率論概説』、『はやわかり商法』、『放牧の今日』。しかし、専門の鍵業者ではなく後輩の二人に依頼したのは何か裏があると帰ってしまう。4冊の3ケタの分類番号から次郎は、あるメッセージを読み解いた、と先輩に伝えるが......。
また短篇「ない本」は、自殺した3年生が最後に借りて読んでいた本を教えてほしいと男子の先輩に頼まれるという話。二人は「図書館の自由に関する宣言」をタテに、利用者の秘密は教えられないと断る。彼らの質問に答えるという形で本を絞り始めるが......。
6つの短篇ともに、何か大きな事件が起きるわけではない。誰かがうそをついていて、その秘密を明かすのが本と鍵ということになるだろう。
二人の「学生探偵」が協力する、ほんわかした学園物といった雰囲気は、後半2篇でにわかにシリアスな影を帯びる。皮肉屋の松倉には何か事情がありそうだ。次郎は公立図書館で過去の新聞記事を検索する。そして分かったことは......。
米澤さんは作家デビューの前、書店員をしていた。そのため、本や図書館には並みの作家以上に詳しいようだ。その経歴が本書の随所に役立っている。短篇集だが、通して読むと二人の友情を描いた、ひとつの長篇のようにも思える。図書委員という地味な設定だが、知力を尽くした熱い青春が展開していた。本好きのBOOKウォッチ読者には、特に面白く読めるだろう。
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