23人のベテラン俳優が役者人生を語ったインタビュー集『すべての道は役者に通ず』(小学館)。日本映画、時代劇研究家として作品や制作者、出演者について精力的に執筆活動を続けている著者、春日太一さんならではの仕事の妙もあり、それぞれの歩んできた道が、それぞれの役者像に影響していることがよくわかる。彼らの出演作を思い出しながら、あの作品でのあの振る舞い、あの語りは、そういうことだったんだと、何かの問題を解決したときに味わう満足と似たような読後感が得られる一冊。
主役が多いスターあり、渋い脇役あり、悪役で存在感を発揮する人ありと多彩。いまにいたるキャリアづくり、仕事に臨む態度もさまざま。目次の名前の並びに、ページを開いた当初は規則性がわからずどういう順番かなと思ったが、最後の注意書きで納得。生年月日順だった。
トップに登場するのは「現役最高齢」で、今年91歳の織本順吉さん。学徒動員で東芝の工場で働き、終戦後、同社の募集に応じて勤務を継続。その職場で素人芝居に参加し、会社の解雇をきっかけに役者の道に進んだという。その後、劇団の同僚だった岡田英次、西村晃らのほか、木村功、金子信雄らと新たな劇団を旗揚げするなどして舞台俳優に。西村晃が、自分の顔にみてウットリするようなナルシストだったなど、当時の役者仲間の話も興味深い。
のちに映画にも多く出演するようになった織本さん。本書で次に登場する加藤武さんともども、東映の「仁義なき戦い」シリーズで、堂々と構えようとしながらも実は気弱な親分役を演じている。織本さんは「意識的に気弱な感じでやったことはない」と述べ、加藤さんは「やりよかった。自分をそのままやってればいいから」と語っている。
23人ものインタビュー集なので、共通するような話題が少なからずあり、それらを比べて読む楽しみ方もできる。織本さん、加藤さんの「親分役」のように。
それぞれの役者には、師と慕う人、ロールモデル、恩人、あるいは反面教師となるような存在があり、なかには、何人かが口をそろえて挙げる人物がいる。三木のり平、三船敏郎、勝新太郎、森光子、高倉健、緒形拳、中村錦之助、森繁久彌、三國連太郎ら。「コメディアンになりたい」と思っていた左とん平さんが「三木のり平さんに傾倒した」というのはナルホドと思うが、新劇をやっていた寺田農さんが三木のり平に弟子入りし長く共演していたというのは意外な経歴だ。「いろんなことを手取り足取り教えてもらった」という。
加藤武さんは、黒澤明監督作品で数多く出演、共演回数も多かった三船敏郎を「一番尊敬している」という。劇団の研究生時代の「悪い奴ほどよく眠る」。三船の出番を控えたシーンで加藤さんが30回以上NGを出したが、三船は「その間、一度も嫌な顔をしない」。それどころか休憩中に喉がカラカラになっていた加藤さんに水を黙って渡してくれたという。三船については寺田農さんが「気遣いの人だった」と評し、江守徹さんは殺陣のうまさを述べている。
松平健さんが勝新太郎の付き人をしながら、テレビ時代劇「暴れん坊将軍」の主役を射止めたことは知られている。松平さんは付き人時代の勝の気配りを熱く語っている。勝の気配りは独特だ。山本圭さんは共演時に「御店者の所作」を教えてもらい、別のときには京都の茶屋で三味線の妙技を見せてもらったことを明かしている。
歌舞伎界から映画界への「道」をきた中村嘉葎雄さん、兄のスター、中村錦之助(萬屋錦之介)を追った格好で容貌も似ていたが、兄と似ていると言われるのが嫌だったと回想。「似ないようにして汚れ役を選んでいくようにした」という。錦之助とは対照的に地味で渋い役が確かに多い。舞台装置など裏方志望から俳優になった山本学さんは、テレビドラマ「白い巨塔」で共演したスター、田宮二郎との苦い思い出を語っている。
寺田農さん、江守徹さん、それに、石坂浩二さん、橋爪功さん、中井貴一さんは役者としてのほか、名ナレーターとしても知られる。それぞれに流儀や臨み方などにこだわりがあり、彼らの語りの楽しみ方に幅ができそうだ。
収録された23人はほかに、宝田明さん、上條恒彦さん、山本圭さん、藤竜也さん、西郷輝彦さん、武田鉄矢さん、火野正平さん、勝野洋さん、滝田栄さん、中村雅俊さん、笑福亭鶴瓶さん、佐藤浩市さん。
本書は「週刊ポスト」の連載「役者は言葉でできている」を書籍化したもので、夏八木勲さん、蟹江敬三さん、平幹二朗さん、松方弘樹さんら16人を集めた「役者は一日にしてならず」に続く第2弾。連載ではスペースの関係で収め切れなかった内容を加え、書籍化にあたっては大幅に改稿したという。加藤武さんは3年前に、左とん平さんは今年2月に亡くなっており、2人にとっては最後のロングインタビューになった。
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