読むべき本、見逃していない?

文化大革命もタブーになった中国、作家は何を語る?

  • 書名 作家たちの愚かしくも愛すべき中国
  • サブタイトルなぜ、彼らは世界に発信するのか?
  • 監修・編集・著者名高行健、余華、閻連科 著、飯塚容 訳
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2018年6月25日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数四六判・237ページ
  • ISBN9784120050930

 このところ、日本で中国が話題になるのは、アメリカと肩を並べるにいたった強大な経済力と軍事力のことばかりである。「米中貿易戦争」の余波で、日本がどんな影響を受けるのか、というニュースが関心を集める。

 そんな折、手にしたのが本書『作家たちの愚かしくも愛すべき中国』(中央公論新社)である。文学者はいまの中国をどう考えているのか? 日本については? という疑問に答えてくれるのでは、と期待したからだ。

 2000年に中国語で創作する作家として初めてノーベル文学賞を受賞した高行健(こうこうけん)と世界的評価が高まっている余華(よか)、閻連科(えんれんか)の3氏が登場、それぞれのプロフィール、インタビュー、日本の作家との対談、講演の四部構成となっている。

 その中から日本の読者に興味深いところをピックアップしてみよう。

 ノーベル賞作家の高行健氏は、1940年生まれ。北京外国語学院フランス語科を卒業後、文化大革命中は山村に「下放」し、中学教師をした。北京に戻り、70年代末から小説を発表。北京人民芸術劇院専属の劇作家となったが、不条理劇『バス停』が「西欧の退廃的な思想に汚染された作品」と批判され、上映禁止となる。水墨画の才能もあった高氏は、フランスに渡り、89年の「天安門事件」を背景とした劇作『逃亡』で中国政府の反発を買い、97年にはフランス国籍を取得した。長篇小説『霊山』などが評価され、ノーベル文学賞を受賞したが、「亡命作家」に対して中国国内の反応は冷淡だったという。

 本書には2010年9月、国際ペンクラブ東京大会で行った「環境と文学――いま、何を書くか」と題した講演が収録され、「この物欲がはびこり精神が貧困な時代に、世界的な金融危機が勃発しました。資本の利潤という法則が無制限に蔓延し、誰もそれを阻止することができません。その真相を誰が説明できるでしょうか? 人間の貪欲さを指摘できるのは、おそらく文学だけです」と、文学への希望を語った。

引き締めの時代つづく

 余華氏は1960年生まれ。6歳のときに文化大革命が始まり、大人たちの武力闘争を目の当たりにしたことが創作に影響を与えているという。町の診療所の歯科医になったが性に合わず、創作を始めた。一庶民の運命を描いた『活きる』は張芸謀監督によって同名の映画となり、94年カンヌ国際映画祭で審査員特別賞、主演男優賞を受賞している。エッセイ集『ほんとうの中国の話をしよう』は、12年に日本で邦訳が出ているが、天安門事件などを扱った内容から中国では出版されていない。

 17年10月に行った訳者・飯塚容氏(中央大学教授)のインタビューにこたえ、「突然、文革が語ってはいけないテーマになった理由はわかりません。もともと、『六・四天安門事件』(一九八九年)はタブーでしたが、文革を語ることはできました。小説、映画、その他の芸術の中で、描くことが可能でした。それが急に語られなくなった。いったいなぜなのか、私にはよくわかりません。執政党である中国共産党は、自分の歴史上の誤りを消し去りたいのでしょう。今後、誰も文革のことを語らなくなれば、文革は本当に忘れ去られます」と語っている。

 さらに中国の将来について「中国の歴史は、簡単に言うと、血にまみれています。一つの王朝が打倒されて次の王朝が誕生するというサイクルの繰り返しです。このような血にまみれた歴史は、中国以外のどこの国家にも見られません。いまの中国社会は、また引き締めの時期を迎えています。この引き締めの時代は、五年では済まないでしょう。私は一〇年、一五年を覚悟しています。私の本は今後、台湾で出すつもりです(笑)。あるいは日本で出しましょう」と言論統制について悲観的な見方をしている。

日本の若手作家の本は中国で紹介

 閻連科氏は1958年生まれ。貧しい農家に生まれ、セメント工場で働く。農村を脱出する手段として人民解放軍に入り、軍の文学創作班で学び、小説を書くようになる。03年に発表した『愉楽』は、身体障害者ばかりが住む村の歴史を描き、軍からにらまれて除隊。その後も大躍進政策による飢饉を描いた『四書』は、過激な内容に国内の出版社は尻込みし、香港と台湾の出版社から刊行された。

 飯塚氏によると、閻氏は日本文学に強い関心があり、四度来日し、日本の作家と交流している。2010年9月に北京で開かれた「日中青年作家会議」で講演し、個人的には源氏物語、大江健三郎に次ぐ第三の波として、青山七恵、金原ひとみ、伊藤たかみ、中村文則、山崎ナオコーラといった若い世代の作品を挙げ、自分の書棚に並んでいると語った。

 飯塚氏は政治と文学の関係について、三氏をそれぞれ、訣別型、対抗型、忍耐型と分類し、ナショナリズムへの警戒心は共通している、とみる。

 こういう時代だからこそ、彼らが代表する中国文学は面白そうだと思った。本書はよきガイドになるに違いない。

 中国の最近の監視社会ぶりについて、本欄では『習近平のデジタル文化大革命』を紹介したばかりだ。  

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