読むべき本、見逃していない?

フランスの代表的な知性が取り組んだ100の疑問

世界一深い100のQ

 宇宙、物理、生物、数学、医学、経済、環境など総勢35人の専門家が100の疑問に真正面から取り組み、回答したのが本書『世界一深い100のQ』(ダイヤモンド社)だ。翻訳というと日本では圧倒的に英米ものが多いが、本書は最初からフランスの香りがぷんぷんして楽しく読ませてくれる。

 最初のQは「声帯移植はいつ可能になるのか?」。フランスは臓器移植が盛んな国として知られている。交通事故などで脳死患者が発生すると、事前に拒否の意思を示しておかない限り、脳死移植の臓器提供者となる仕組みがかなり以前からできている。脳死移植が少ない日本とは大違いだ。それでも声帯移植と聞くと、ちょっとびっくりする。「声帯移植はすでに、ある患者に実施されてよい結果を収めた」。回答するのは耳鼻咽喉科医。フランスでもかなりマニアックな質問のような気がするが。

数学のない世界はどんな世界?

 3問目は「数学がなかったら、我々の世界はどうなるか?」。答えは「数学のない世界は、テクノロジーのない世界になるだろう」。「データの圧縮を可能とするアルゴリズムがないので、映像をダウンロードすることができない。伝達の秘密保持を保証する信頼性の高いソフトウエアがないので、キャッシュカードの番号を気軽に送ることができない」。ちょっとまともすぎる回答だと思っていると、「それ以外にも、予期せぬ変化が現れるにちがいない。多くの芸術家が、数学をインスピレーションの源にしてきたからだ」。例示されるのは画家のサルバドール・ダリや建築家のル・コルビュジエ、作家のウンベルト・エーコなど。名前を見ただけでも、こちらの教養が試されてしまう感じがする。

 「レマン湖を満たすにはどのくらいの時間がかかるか?」という問いも。レマン湖はスイスとフランスにまたがる湖で面積は琵琶湖よりやや小さい程度。ローヌ川から水が流れ込み、流れ出すという。流入量は平均毎秒250立方メートルで、900億立方メートルの容量の湖を満たすには11年かかる。「世界最大の淡水湖、シベリアの巨大なバイカル湖は、貯水量が23兆立方メートルで、入れ替わるには350年を必要とする」。この数字をみるだけで、水は大事に、きれいにしておかないといけないなと感じる。

 「神は数学が得意なのか?」という問いもある。「俗っぽく言うならば、『我々が生きている世界は、数学の方程式に支配されているのか?』となるだろう」。これもウームとうなるしかない。八百万の神を崇める日本では、数学者でも神は数学が得意かどうかなどとは考えないだろう。回答者はロボット工学者で、人型ロボットに、後ろに押されても転ばない動きを覚えさせていたとき、重心がどこに動くかを見つける方程式をプログラム化したところ、体の平衡を取り戻す動きが「驚くほど人間に似ていた」という。「この反射的動作を我々に与えたことで、神は数学者としての才能を証明したと断言できるだろう」。これもきわめて深い回答の一つと言えるのかもしれない。

 「コンピューターは匂いを感知できるか?」という問いも。「鼻の役割は、我々が毎日吸っている1万リットルの空気を湿らせ、掃除し、温めることだ」「鼻は10平方センチメートルの粘膜で覆われ、その天井部分に2平方センチメートルの嗅上皮(きゅうじょうひ)がある」。嗅上皮には嗅細胞があり、嗅覚受容体を持っている。「嗅覚受容体の細胞は、神経細胞としては唯一再生可能で、寿命は6週間から8週間だ」。もちろん、この回答も耳鼻咽喉科医によるものだ。

よい昼寝と悪い昼寝があるのか?

 「眠らずに生きることはできるか?」という問いも。「できない。何も食べずに生きることができないように......。睡眠は生きるために不可欠だ」。1964年にある青年が11昼夜眠らないというギネス記録を打ち立てたそうだが、第一夜目から彼には多くの変調が現れたという。「注意力と集中力が落ち、反応が鈍り、決断や判断が遅れ、物忘れや失敗が増え、怒りっぽくなると同時に鬱症状を見せて、左右の視野が狭くなったのだ」。やはり日々、適切な睡眠をとるのが一番のようだ。

 最後は「よい昼寝と悪い昼寝があるのか?」という問い。「人は起きたあとも、日の出から6時間後(『シエスタ』という言葉はラテン語の『6番目』からきている)に少し眠くなる。この時間になると、前夜の睡眠で蓄えたエネルギーが枯渇し、活性化状態が停滞するからだ。このあと、16時~17時ごろには、体温が最も高くなり、再び活性化状態になる」「このわずかな時間帯に、ベッドかソファに横たわったなら、すぐに眠ってしまうだろう。10分~30分であれば、たいてい眠りは浅く、簡単に目が覚めて、すぐに活動を再開できる」。だが、45分以上の眠りすぎは起きてもぼんやりした状態が長く続くので、禁物のようだ。

 「昼寝を最大限に有効活用するには、寝る直前にコーヒーか紅茶を飲むといい。カフェインが脳に達するのに30分かかるので、深い眠りに入る前のちょうどいい時間に目が覚める」。これはまったく知らなかった。睡眠病理学者によるアドバイスなので、そのうち試してみることにしよう。

 35人の専門家の回答から構成されているので内容にばらつきがあるが、自分が興味のあるところだけ取り出して読めばよさそうだ。1問が2ページ程度なので、すぐに読める。ときに日本とフランスの文化や習慣の違いに驚かされるが、フランスでは科学が日常生活を貫いていることも痛感させられる。翻訳はこなれていて読みやすい。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)
  • 書名 世界一深い100のQ
  • サブタイトルいかなる状況でも本質をつかむ思考力養成講座
  • 監修・編集・著者名ロジェ・ゲスネリ、ジャン=ルイ・ボバン他著/吉田良子訳
  • 出版社名ダイヤモンド社
  • 出版年月日2018年8月22日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・206ページ
  • ISBN9784478104736

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