劇団「大人計画」を主宰する松尾スズキは、このところ松尾の自画像とも言える人物・海馬五郎を主人公にした小説をシリーズ化している。
2018年上半期の芥川賞候補となった『もう「はい」としか言えない』は、再婚した主人公の浮気がばれ、「2年間、仕事中でない限り、外出先からスマホで1時間おきに背景を含めた自撮りの写メを送ること、そして毎日妻とセックスすること」を条件に離婚を免れた男の物語だった。
本書『108(イチマルハチ)』(講談社)は、それの陰画のような作品である。松尾が監督・脚本・主演を務め、来年(2019年)秋に同名の映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』が公開されることになっている。ネタばれにならない範囲で紹介すると――。
脚本家の海馬五郎は、10年前に自分が初めて撮った映画がミュージカル化されるにあたり、原作者としてオーディションに立ち会っていた。だが、小金を稼ぐために引き受けた雑誌コラムの締め切りが迫り、内職に余念がない。そんな時、オーディションを落ちた女優・赤井美月に妻綾子のFacebookの画面を見せられる。それから地獄が始まる。
元女優の妻は若いダンサーへの恋心を日々綴っていたのだ。腕に男の名前のタトゥーを見つけた海馬は「出ていってくれ!」と叫び、妻は出て行ったきりだ。
離婚を決意した海馬は、財産分与で半分妻に持っていかれることを知り、2000万円の預金をすべて風俗に使いきろうとする。そして108人の女を抱こうとさまざまな遍歴を重ねる。
映画化するそうだが、果たしてこんな場面をどうやって映像にできるのかと思うような難度の高い場面が次々に登場する。コラム執筆など、いろいろな仕事をやって貯めた金を一気に蕩尽しようという海馬だが、笑わずにはいられない。バカバカしくも興味深い男女の性のさまざまな相が描かれる。
言うまでもなくタイトルの「108」は人間の煩悩の数。悪夢のような性の饗宴を描いたフェリーニの映画『サテリコン』まで近づけるか、本書を読むと、映画化への期待が高まる。
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