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墓の戒名からいろいろなことが分かるらしい

戒名探偵卒塔婆くん

 高殿円さんと言えば、連続ドラマ化された『トッカン 特別国税徴収官』シリーズでブレイクした「お仕事小説」の書き手という印象がある。その高殿さんの新作『戒名探偵卒塔婆くん』(株式会社KADOKAWA)には驚いた。墓石などに記された数文字から過去の謎をつきとめる「戒名探偵」が登場するのだ。

 中篇4作が収められている。タイトルと同じ「戒名探偵卒塔婆くん」の舞台は、東京・麻布にある臨済宗の寺、金満寺。次男・春馬は住職代行の兄・哲彦に無理難題をふっかけられる。境内から出てきた古い墓石の身元を探せというのだ。春馬が頼ったのは、有栖川学院高等部の同級生で「古文化研究会」会長の外場薫。一目墓石を見ただけで、墓が建った年代、葬られた人の身分、性別、宗派、人物像まで見抜くのだ。人呼んで「戒名探偵」。

 「清室浄蓮・信女」という戒名から、江戸時代に水害で命を落とした女性と分かり、過去帳と照らし合わせ、後裔までたどりつく。金満体質の住職代行の哲彦は、供養を申し出て、ちゃっかり寄進の約束をとりつける。(もっとも最近は、過去帳の調査は個人情報の関係できわめて難しいようだ)。

 他の3篇でも同様に外場の推理は冴え、江戸時代の人物の名前から墓を探したり、寺を舞台にした企画で見事なプランを出したりと活躍する。さまざまな宗派や寺院経営のあれこれも披露され、タメになる面も。

 寺、墓というとエンタメの素材としては敬遠されがちだが、高殿さんは舞台を東京・麻布という一等地に設定することで明るい雰囲気作りに成功している。金持ちのボンボンが通う有栖川学院という主人公らの学校もいい味を出している。外場がなぜ高校から転入してきたのか、なぜ仏教に造詣が深いのかは謎のままだが、この先シリーズ化されると明らかになってゆくと期待したい。

 考えてみれば、寺にはその土地と人々の歴史が刻まれている。また最近はいろいろと寺がらみで大金が動く事象も耳にする。ユーモアミステリの素材としては、うってつけかもしれない。『トッカン』同様に、ドラマ化しても面白いかもしれない。ミステリアスな雰囲気の外場、金にうるさい元ヤンキーの住職代行などキャラも立っている。

 ところでみなさんは、肉親の戒名をご存知だろうか。評者も父親の戒名を思いだし、確かにいろいろな情報が込められていることに気がついた。戒名おそるべし。

 BOOKウォッチでは江戸時代の墓を研究した『墓石が語る江戸時代――大名・庶民の墓事情』(吉川弘文館)も紹介済みだ。  

  • 書名 戒名探偵卒塔婆くん
  • 監修・編集・著者名高殿円 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年11月 2日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・296ページ
  • ISBN9784041074244
 

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