読むべき本、見逃していない?

江戸時代、レオナルド・ダ・ヴィンチのような日本人がいた!

司馬江漢

 日本史の教科書などで「司馬江漢」という名前を見たことはないだろうか。あるいは展覧会で司馬江漢作とされる銅版画や洋風画を目にしたことはないだろうか。中国人? でも作家の司馬遼太郎さんは、日本人なのに中国の歴史家・司馬遷にあやかって「司馬」という筆名をつけたそうだから、そのたぐいなのか? 名前は知っているけれど、よくわからない人という存在になっているのでは。

 本書『司馬江漢』(集英社新書)の著者である科学者の池内了(さとる)さん(名古屋大学名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授)も、最初は中国人だと思っていたほどだから無理もないだろう。画家でない池内さんが、なぜ司馬江漢に関心を持ったのか。日本の科学の源流として江戸時代の博物学について調べていたら、「司馬江漢という絵師が突然登場して日本において最初に地動説を世に広め、無限宇宙論の入り口に立っていたということを発見したからだ」とその驚きを記している。

 日本で最初に銅版画の技法を発明し、また油絵の手法を確立した画家であり、さらに西洋科学を自分の絵を使い解説した日本初の「科学コミュニケーター」であった司馬江漢を、池内さんは「江戸のダ・ヴィンチ」とまで高く評価している。そんな彼が、なぜ忘れられた存在になっているのか。画業については多くの本が出ているが、科学者の眼から見た初の評伝として実に面白い。

 まずはなぜ「司馬」と名乗ったか? 1747年に江戸に生まれ、著名な浮世絵師・鈴木春信の弟子となり、「春茂」の号をもらったという。その後、漢詩を作るようになり、当時江戸の「芝」に住んでいたので、唐風の「司馬」にしたそうだ。町絵師として売り出し中であり、インパクトのある名前をつけたと推測される。

 本書によると、江漢は平賀源内から銅版画を紹介され、オランダの本を参考に技法を我が物にしたという。精密な「両国橋図」などの作品を残している。また源内を通じて、小田野直武、佐竹曙山らの「秋田蘭画」から洋風画の知識を吸収したようだ。「山師」でもあった源内とともに秩父の鉱山開発に手を出し、失敗したこともあるそうだ。

超・わがままな変人だった

 さて、絵で食えるようになった江漢は、窮理学(科学)にめざめ、自らの絵を武器に西洋の科学、知識の啓蒙家として登場する。オランダの世界図を基にした銅版画「輿地全図」とその解説書「輿地略説」を1792年に刊行、ユーラシア大陸を中心に、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、南北アメリカ大陸が描かれ、国ごとに色分けされて見事な出来栄えだという。さらに天文、世界地理、地動説、宇宙構造論にまで手を広げている。

 オランダ語がまったく物にならなかったのに、傍若無人な態度で蘭学仲間を批判したり、悪口を言ったりしたため、しだいに疎まれ、「こうまんうそ八」とまで非難されるようになった江漢。

 晩年に変人じみた奇妙な行動を繰り返す。引退宣言して全作品を売りに出すが、引退はしない。62歳になってから突然年齢を9歳多くサバを読み、死ぬまで年齢詐称を押し通す。さらに76歳で自らの偽りの死亡通知チラシを撒く。

 反骨精神が旺盛で、自己プロデュース能力に長けていた江漢だが、一介の絵師に過ぎず専門家でなかった江漢は、後年忘れられる存在になった、と池内さんは指摘する。しかし、その波乱万丈な生き様はテレビの連続ドラマに向いているのでは、と推している。

 BOOKウォッチでは池内さんの『科学者と軍事研究』(岩波新書)を紹介している。  

  • 書名 司馬江漢
  • サブタイトル「江戸のダ・ヴィンチ」の型破り人生
  • 監修・編集・著者名池内了 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2018年10月22日
  • 定価本体940円+税
  • 判型・ページ数新書判・317ページ
  • ISBN9784087210514

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