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鶏の首をナイフで切り落としたら鮮血が噴出・・・失神!

グリーン・グリーン

 田舎の農業高校に赴任した新米教師、翠川真緑(みどりかわみどり)、通称グリーン・グリーンの奮闘記の第二弾が本書『グリーン・グリーン』(徳間書店)。第一弾は同名のタイトルで2014年8月に刊行され、17年に文庫化されている。本書はサブタイトルに「新米教師二年目の試練」と付いているが、書名自体は第一弾と同じなので、少し紛らわしい(区別するため『グリーン・グリーン2』としている販売サイトも)。

 著者は『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞した、あさのあつこさん。最初は農業高校が舞台の「お仕事小説」かと思ったが、そうでもないみたいだ。

 真緑は都会で生まれ育ったが、失恋のショックを炊き立てのおにぎりで救われたことがある。どうしても、そのお米の産地で暮らしてみたいと、教師になり、県立喜多川農林高校に赴任して2年目。畜産科には山羊と豚がいるし、園芸、栽培科には花、果樹、野菜の畑や、ビニールハウスが並んでいる。林業科には研修林や、炭焼き釜まで揃っている。そんな牧歌的な環境で、彼女は教師として成長してゆく。

 正月に実家に帰った真緑は、母親の加南子が昔、鶏をさばいたことがあることを知り、驚く。国語の教師だから畜産科のことは関係ないと思っていたが、「あんたより上よね」という母の言葉が気になり、鶏の解体授業を参観したいと言い出す。ところが、作業もすることになり、気がつくと失神していた。鶏の首にナイフを突き立てたまではよかったが、首を切り落とし、鮮血が吹き出したとたん気絶したのだ。さらに下宿先でふるまわれた鍋の鶏肉にまた気分を悪くし、泣いてしまう。

 真緑は、学校で飼っている豚の201号となぜか話が出来るという設定なのだが、201号に「甘えんじゃないよ」と怒鳴られる。敬意をもって大切に肉を食べなければならない、という教訓も豚からされると納得してしまう。こんなやりとりはSF的だが、あさのさんの筆力で自然に読めてしまう。

 さらに豚の去勢作業への挑戦、生徒たちの恋愛への対応などに追われ、そのたびにへこむ真緑だが、しだいにたくましくなってゆく。

 皆が皆、農業に携わりたいと農業高校へ来る訳でもなく、3割ほどは進学し、就職組の多くは農業とあまり関わりのない職種につくという事情も語られる。このあたりは、今年(2018年)の夏の甲子園で準優勝し話題となった、秋田の金足農業高校の進路状況についてたまたま評者が調べたことがあり、同じような状況であることが分かった。エースの吉田輝星投手も大学進学の予定を変更し、プロ野球入りの意志を表明したばかりだ。

 本書は、「お仕事小説」にお約束のサクセスストーリーにはなっていない。しかし、農業高校の現場や地方の農山村の断面がくっきりと温かい筆致で描かれているので、その方面に関心がある人には参考になるだろう。それにしても、本書と直接の関係はないが、16歳の農業アイドルの自殺話は悲しい。何とかならなかったのか。  

  • 書名 グリーン・グリーン
  • サブタイトル新米教師二年目の試練
  • 監修・編集・著者名あさのあつこ 著
  • 出版社名徳間書店
  • 出版年月日2018年9月30日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・279ページ
  • ISBN9784198646806

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