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高倉健「網走番外地」はフィクションではなかった

鎖塚

 明治維新は日本を大きく変えた。中でも北海道の変わり方は日本のどこよりも劇的だった。未開の原野が短期間で切り開かれ新天地となった。ロシアの南進に備えるためにも、新政府にとっては北海道の整備を急ぐ必要があった。

 本書『鎖塚――自由民権と囚人労働の記録』(岩波現代文庫)は、そうした急激な北海道開拓がどのように行われたのか、裏面史を掘り起こしたものだ。原本は1973年に現代史出版会から刊行されており、本書は久しぶりの復刻版となっている。

ロシアはシベリア鉄道の測量を始めていた

 「鎖塚」と聞いて、何のことか、すぐわかる人はかなり北海道の歴史に詳しい人だ。公知のように、北海道開拓には多数の「囚人」が動員された。彼らは逃亡しないように、両足に約4キロの鉄玉を付け、ペアとなる囚人と鉄の鎖で繋がれていた。重労働の末に亡くなった人も多かった。鎖を付けたまま埋められた彼らの墓を「鎖塚」というのだ。

 網走から北見に抜ける「北見道路」(163キロ)は「囚人道路」と呼ばれている。1891年に切り開かれた。当時人口約600人といわれた網走に、全国から約1500人の囚人が送り込まれた。シベリアではそのころロシアが鉄道敷設の測量に着手していた。ロシアに備えるために、屯田兵村をオホーツク沿岸部に作る必要があるということで道路建設が急がれた。一種の軍事道路だった。

 突貫工事の苛酷な労働だったから逃亡者も出た。「逃亡せる者は斬殺」とされていた。まず足を銃撃し、抵抗すると斬る。「拒捕斬殺」という。これは看守の権限とされた。毎日のように脱走者が出たという。いわば見せしめのために鎖や縄を付けたまま埋葬した。

 のちに近隣の田畑を掘り起こしていると、白骨と共に鎖が出て来ることがあった。「鎖塚」だ。この「北見道路」周辺には何か所かあり、近年、地元の人たちが慰霊碑もつくっている。

 映画「網走番外地」を見た人なら思い出すだろう。高倉健が脱走するシーン。手錠と鎖で繋がった相棒と、雪原を転がるように逃げ回る。似たようなことが実際に「国策」の陰で北海道開拓では起きていたのだ。

政治犯も含まれていた

 著者の小池喜孝さん(1916~2003)は民衆史研究者として知られる。東京生まれ。出版社員などを経て北海道に渡り、北見工業高校の教員になる。オホーツク民衆史講座を主宰し、のちに北海道歴史教育者協議会の副会長も務めて歴史に埋もれた人々に目を向けた。

 小池さんは、民衆史研究者として、1884(明治17)年に埼玉県で起きた「秩父事件」を追っていた。自由民権運動では最大級の事件とされる。首謀者の何人かは懲役10年以上の刑で北海道に送られている。その足取りを調べているうちに、北海道の刑務所に関心を持つようになる。

 北海道には1881(明治14)年以降、樺戸(現月形町)などあちこちに「集治監」(現在の刑務所)ができていた。収監されるのはおおむね重罪の囚人だった。その中には、通常の刑法犯だけでなく、政治犯も含まれていた。西南戦争の敗惨囚もいた。

 本書は「秩父事件」の関係者の消息探しから始まり、さらに「囚人労働廃止をたたかった人々」「朝鮮人・中国人の強制連行と労働」「三池炭鉱から送られた人たち」など地域やテーマが次第に広がっていく。そして、北海道がどのような手立てで開拓されたか振り返る。

アイヌ人を使わなかった理由

 本書で意外なことも知った。たとえば福岡県三池の「集治監」の地下はトンネルで炭坑とつながっており、囚人が炭坑で働かされていた。明治19年からの11年間に686人の囚人が死んだという。三池ではしばしば暴動がおこり、首謀者が北海道に送られた。

 なぜ北海道の開拓にアイヌ人を動員できなかったも記されている。江戸後期からのアイヌ虐待で人口が減少していたこと、元々漁労民なので土木工事に適さなかったこと、無理やり樺太から連れてきて働かせようとしたが、コレラや天然痘で大量の病死者が出たことなどによる。当初はアイヌ人利用を目論んだが、無理と分かり、囚人に切り替えたというわけだ。

 本書を読んでもう一つ印象に残るのは、あちこちで、著者に協力する地元の研究者が登場することだ。地域史、郷土の民衆史の研究は一人でできるものではない。小池さんの名前は民衆史研究の分野で燦然と輝くが、その陰にはまた小池さんが頼りにした人が多数いたということも改めて知った。

  • 書名 鎖塚
  • サブタイトル自由民権と囚人労働の記録
  • 監修・編集・著者名小池喜孝 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2018年6月16日
  • 定価本体1420円+税
  • 判型・ページ数文庫・400ページ
  • ISBN9784006033095

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