慶應義塾大学経済学部を出てワコールに入社、3年で落語界に入った著者は、長い下積み生活を余儀なくされる。「立川ワコール」として前座を9年半の長きにわたり務め、二つ目となり師匠の立川談志から立川談慶と命名され、2005年に真打ちに昇進。その体験をもとにした自己啓発本が『慶応卒の落語家が教える「また会いたい」と思わせる気づかい』(WAVE出版)だ。
よその一門では3年で二つ目になる人もいるのに、なぜ著者は9年半もかかったのか。弟弟子の談笑にも抜かれ、「前座は噺が下手なのではない。気づかいが下手なのだ。昇進の早い・遅いも、すべて気づかいの差」ということにようやく気づき、以後精進したという。
「気づかい」が大事だという単なる教訓の本であれば、それ以上読む気にもならなかったが、落語界、なかんずく、天才立川談志が率いる立川流の話なので興味がつきない。「俺を快適にしろ」という命令の下、前座修業はスタート。師匠のプライベート空間を快適にするための作法が求められ、「掃除機の音を上手に使って師匠を目覚めさせる」方法が伝説的に語られていたという。二つ目の昇進基準に「歌舞音曲のレベルの高さ」が付け加わり、けいこにも真剣に取り組んだそうだ。
相手が何を求めているのか、それを「見える化」し、自分オリジナルのマニュアルをつくること、マニュアル作成こそ、「言語化」だという。さらに数値化でゴールに。まとめると。
1 気づかいは、人の目に見えなければ意味がない。 2 気づかいは、言語にしなければ習慣にならない。 3 気づかいは、回数をこなすことで習慣化する。
著者は2013年に『大事なことはすべて立川談志に教わった』(ベストセラーズ)を書き、水道橋博士に「徒弟制度のバイブルだ」と評価され、その縁で博士の「メル旬報」に「アマデウスの噺~立川流の天才論」を連載している。毎月師匠の供養のつもりで書いているうちに、天才と言われた師匠は実は気づかいの人だったことに気づいた。「気づかい」は長い目で見れば、「投資」であるという。
啓発本の体裁を取っているが、落語やお笑い芸人のエピソードも多く、楽しめる。啓発本にありがちな「上から目線」でないのもよい。なるほど、気づかいの本である。
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