本書『マッドジャーマンズ』(花伝社)の副題は「ドイツ移民物語」。てっきりドイツで「マッド」=「狂った」というような差別的あつかいを受けている移民の話かと思っていたら、半分は当たっていたが半分は違っていた。「マッドジャーマンズ」とはアフリカ・モザンビークで「ドイツ製」という意味で、移民の故国でも彼らは差別されていたのだ。もちろんドイツでも。
本書を「社会派コミック」と紹介すればマンガのように思われるが、相当ニュアンスが違う。推薦のことばを寄せているドイツ在住の作家、多和田葉子さんは「グラフィックノベル」と表現している。「絵のある小説」、この方がしっくりくる。
モザンビーク出身の架空の若者3人が主人公。それぞれかかわりながら3人の視点で物語は描かれる。それぞれ教師やエンジニアなどを希望していたが、1981年、モザンビークから東ドイツにやって来たジョゼは線路工事の現場に。故国は労働者として東ドイツに送り込んだのだった。3年後、同じような移民アナベラと出会い恋に落ちたが破れ、帰国した。送金していた金は政府に搾取され、同胞からは冷たい眼で見られた。
バジリオはジョゼのルームメイトだった。まじめなジョゼとは対照的に自由を満喫していた。ジョゼとつきあい妊娠したアナベラに中絶医を紹介した。それが原因でジョゼとアナベラは別れたのだった。素行の悪いバジリオは職場を替えられ、ドイツ人の仲間とは折り合いが悪く失職。ドイツ統一とともに差別はさらにエスカレート、故国へ帰った。しかし、ドイツ帰りと嫉妬され、家を放火された。そこで立ち上がり、「マッドジャーマンズ」という悪口を自ら名乗り、かつての契約労働者たちは連帯した。政府から金を取りかえす運動を続けている。
アナベラが派遣された職場は湯たんぽ製造人民公社だった。向学心のある彼女は勉学にも励んだ。妊娠即帰国が原則だったので、帰りたくない彼女は妊娠中絶を選び、ジョゼと別れた。統一後のドイツは、モザンビークとの労働協定を破棄した。彼女は弁護士を使い滞在許可を取り、さらに医学部に進み、医者となった。そして今もドイツに住む。
物語の3人は著者のビルギット・ヴァイエが、モザンビーク各地やドイツで十数人へのインタビューを重ね、作り上げた人物像だという。1979年以降、東ドイツには2万人のモザンビーク人が住んでいた。ヴァイエ自身は3歳でウガンダに移住し、ケニアで育ち、19歳でドイツに帰国した「白人」だ。モザンビークを訪ねたとき、現地の男性が完璧なドイツ語で話しかけてきたことがきっかけで、この問題に関心をもったそうだ。
本書はドイツで2016年にマックス&モーリッツ賞最優秀ドイツ語コミック賞を受賞、マンガとしても高く評価された。褐色と黒と白の3色で描かれた画面はとてもグラフィックで見飽きない。
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