海外の動物ドキュメンタリー番組を見ていると「プレデター」すなわち捕食者という表現がひんぱんに登場する。現在、海洋世界で生態系の頂点に立つ「トッププレデター」の地位を争うのは「ハクジラ類」のシャチと「新生板鰓類」のホホジロザメというのが定説のようだ。どちらも全長9メートルを超える巨大な海の「帝王」だ。このような生存競争の長い歴史を描いたのが本書『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』(文藝春秋)だ。
地球誕生が約46億年前。本書によると、約39億5000万年前の海には生命がいたという。5億年前の「古生代」になると、現在の生物と縁のある動物たちが現れる。それがタイトルの「海洋生命5億年史」の由来だ。ほかの動物が全長10センチ以下という中にあって、最初の覇者となったのは1メートルという巨体をもつ節足動物のアノマロカリスだった。しかし、すぐに「ウミサソリ類」にその地位を奪われる。
以後、4億1900万年前の「デボン紀」から主役は魚たちとなった。広い意味で「サメの仲間」とされる「軟骨魚類」が登場するが、陸で進化をとげた爬虫類の中から海に進出した「モササウルス類」との競争が起こる。著者の土屋健さんは「四肢と尾がヒレとなったオオトカゲ」と「モササウルス類」を形容する。15メートルを超えるものもいたという。1976年に北海道三笠市で発見された「エゾミカサリュウ」の標本は、当初恐竜とされたが「モササウルス類」と判明したそうだ。
約6600万年前の小惑星衝突により「モササウルス類」は絶滅し、狭義のサメの仲間とされる新生板鰓類が生き残った。新生代は「哺乳類の時代」である。哺乳類の海洋進出が始まり、クジラ類が登場する。全長20メートルの「バシロサウルス」は、胃の内容物の化石からサメやタラを食べていたのではと推測されている。一方の新生板鰓類では「ネズミザメ類」の「メガロドン」が代表で、埼玉県深谷市の荒川から同一個体の歯が73本発掘され、そこから全長12メートルと推測されたという。
そして現在にいたる訳だが、同じような形をした哺乳類のシャチと魚類のサメが覇権を争うのは、不思議なことのようだが、長い進化の歴史の中では同じようなことが繰り返されてきたことを、本書を読んで理解できた。
著者の土屋健さんは、科学雑誌「Newton」の記者などを経たサイエンスライター。監修者はいずれも大学や博物館の古生物研究者。
本書の魅力は100点以上のフルカラーのイラスト。月本佳代美さんと服部雅人さんのイラストは精密さと迫力に満ちており、いまは滅んでしまった生物の生態をなまなましく伝えてくれる。 本欄では最近、『ほぼ命がけサメ図鑑』や『世界の海へ、シャチを追え!』を紹介したばかりだ。サメとシャチは大型海洋生物の人気者ということだろう。
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