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「 私、誘拐されたことがあるんです」秘密のカギは色にあり

星空の16進数

 魅力的な私立探偵が登場すると、それだけでうれしくなり、ページを繰る手が進む。本書『星空の16進数』(株式会社KADOKAWA)に出てくる、女性の私立探偵、森田みどりもその一人になりそうだ。

 育児休暇中のみどりは、100万円を17歳のウェブデザイナー菊池藍葉に届ける仕事を引き受けた。送り主を教えられないと告げられた藍葉は、みどりから100万円を受け取ると同時に人探しを依頼する。相手は6歳のときに、藍葉を誘拐した犯人、梨本朱里だった。不妊に悩む朱里は、母親にネグレクトされ街中に置かれていた藍葉を衝動的に連れ去り、2時間後に逮捕された。懲役2年、執行猶予4年の判決を受けていた。藍葉が提示したのは、当時朱里が住んでいた「東京都足立区西新井」限定で探すという条件。同じ東武伊勢崎線沿線の越谷に住むみどりが西新井に行くと、朱里はすでに住んでいなかったが、別れた夫、豊の実家を訪ねると闇金業者がいて暴力の影が見えてきた。「必要経費2万円、5日間のボランティア」という条件で調査を引き受けたみどりが動きだすと......。

 アルバイトとは言え、ウェブデザイナーとして働く藍葉の仕事ぶりも作品の大きなポイントになっている。タイトルの「16進数」とは「16進数カラーコード」のことで、ウェブデザイナーが使う。赤、緑、青の3つの光を混ぜ合わせて色を作るRGB方式という方法で16777216色を呼び分けられる。たとえば、#FF0000は「Red(赤)」、#000FFは「Blue(青)」のこと。作中にはこのカラーコードがひんぱんに出てきて色を表示する。そして、色がかつての事件の真相に結びついていた。

魅力的な女性探偵

 著者の逸木裕は、『虹を待つ彼女』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。本書が3作目だが、驚異的に読みやすい。フリーランスのウェブエンジニアだった経歴が、藍葉の仕事ぶりに生きている。

 作品は、みどりと藍葉の2人がそれぞれ行動する項が交互に出てくる。このあたりは2進数的な感覚がする。ダブルヒロインとでも言うべき構成だが、みどりを主人公にしたシリーズ化を期待したい。原尞が私立探偵・沢崎を主人公に描くシリーズの新作『それまでの明日』は、14年ぶりに出たばかりだが、ファンとはそれほど長い間、待てるものだ。京大出身、探偵二世という設定のみどりには、育児休暇が明けたら、本格的に稼働してもらいたい。  

  • 書名 星空の16進数
  • 監修・編集・著者名逸木裕 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年6月29日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・364ページ
  • ISBN9784041069189
 

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