巨人戦が行われる東京ドームのスタンドは近年、応援団や熱狂的ファンが占めるライトスタンドを除くと、空席が目立つ。かつてのように毎試合が地上波でテレビ中継されることもなくなり「球界の盟主」という枕詞も陳腐化したようだ。
本書『巨人ファンはどこへ行ったのか?』は、自身が「元・巨人ファン」というライターの著者が、同志や関係者、元巨人の選手に話を聞き、タイトルに据えた疑問に答えを出そうと試みたもの。
球団別の観客動員の推移をみると、実数発表になった2005年以降でも、巨人は13年から4年連続で300万人台を維持するなどデータ的にはファン離れが顕著というわけではなさそうだ。一方、広島をみると04年に98万人台だったものが05年には100万人を上回り、新球場1年目の09年に180万人を突破。15年以降は3年連続で200万人台を記録している。
球場に足を運ぶファンの数だけをみると、巨人は横ばい状態を長く続けており、土台作りが実を結んだ広島は戦力充実によりファンの掘り起しを成功させたといえる。17年の動員数をみると、巨人は約296万人、広島は約212万人。巨人のファン離れというのは実は大したことではなく、広島を始めとした他球団がファンを増やしていることで目立つようになっているのではないか。
これまでにもしばしば指摘されていることだが、ITの進化などにより映像メディアがマルチ化、プロ野球中継の選択肢も拡大し「野球は巨人」時代は終わった。また巨人戦が映像コンテンツとしてテレビの地上波では魅力を失う一方、CSやBS、インターネットを通して12球団のほぼ全試合を自宅で、あるいは外出先でも気軽に楽しめるようになっている。本書のなかで巨人ファンになった動機の一つとして元ファンの多くが「テレビが巨人戦だけだった」ことを挙げているが、そうした時代が終わり、いわば新たなファンを生産するシステムがなくなり、元ファンの存在が目立つようになる。
元ファンはなぜ巨人ファンになったかというと「テレビが巨人戦だけだった」という以外に、親が巨人ファンだったからなど、成り行き的なものが多い。だからこそ、新しい選択肢を提示され、それが、より魅力的であれば、そちらに心奪われるだろう。巨人は系列グループのテレビ中継を通じて、あるいは、親から子への引き継ぎにより、ファンの数を積み重ねてきたのだが、それがスムーズにいかなくなるのを補うように力技で選手集めを行うようになる。このことが逆に幻滅を招き、ほかに目をむけさせることにもなった。
巨人がいまでは「球界の盟主」などではとうになく、12球団のうちの一つにすぎない存在になっていることを本書では指摘したうえで、なお、セ・リーグが巨人に依存する現状の改革を促す。パ・リーグでは共同出資会社を設立するなどしてファン獲得に力を注いでいるのくらべ、セ・リーグでは広島は横浜DeNAなどが独自の企業努力で観客動員を増やしているものの、組織としてリーグではいまだ巨人頼みで「未成熟」のままなのだ。
どこかノンビリした響きのあるタイトルの本書だが、ページが進むにつれて、巨人の球団史で繰り返された選手の獲得をめぐる強引な手法を振り返るなど、陰の部分にも踏み込んでいる。巨人のスキャンダルといえば2011年、元球団代表、清武英利氏が突然内部告発に及び「清武の乱」と呼ばれるようになった。球団にはそれ以来、異様ともいえる「閉塞感」がとりまいているという。「元・巨人ファン」の気持ちは、著者によると「元カノのことを気にかけながら、その幸せを願う」ことに近いらしい。
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