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大学で「語学」を学ぶのは無理だ

ロシア語だけの青春

 東京工業大学助教授などを歴任、NHKラジオ講座「まいにちロシア語」講師もつとめた黒田龍之助さんの新刊『ロシア語だけの青春』(現代書館)を好意的に紹介する書評を読み、手に取った。たとえばフランス文学者の鹿島茂さんは「外国語学習に王道なし」として、「週刊文春」(2018年5月24日号)書評で取り上げ、「必要なのは暗唱と少人数授業、それに熱心な先生だけである」と書いている。

 黒田さんは勉強に興味はないが、外国語は大好きという高校生だった。親戚に外国語に触れている人が多かったため、余計な口出しをされないように消去法でロシア語を選び、NHKのテレビ講座、ラジオ講座、カルチャーセンターで学ぶようになった。

 語学検定試験で不合格になったのを機会に本格的な勉強を志し、高校三年になり、東京・代々木にあった「ミール・ロシア語研究所」に週2回通うようになった。本書は、ここに学び、のちには教えることになった黒田さんの青春記であり、語学学習の真髄にふれる本でもある。

 「ミール」は1958年に創立され、2013年に閉校した。東(あずま)一夫、多喜子夫妻が中心となり教えていた。黒田少年は多喜子先生に当てられ、例文を発音するものの何回もダメ出しされる。「ウダレーニエが弱いんです!」と注意される。ウダレーニエとは、ロシア語の単語で音節のどこか1カ所が他に比べて強く長めに発音されること。「音を作る」ことの重要性を徹底してたたき込まれた。

ロシア語は好きだけど受験に失敗

 さて高校三年生の黒田少年は大学受験を迎える。そんなにロシア語が好きならば、ロシア語学科に進めばいいのだが、すべて不合格。少年は試験に弱かったのだ。受かった私大の史学科に入学しながら、ミールに通う日々が再び始まる。翌年、編入試験の試験科目はロシア語だけという上智大学のロシア語学科に編入した。さらにほかのスラブ語への関心が増し、東大大学院で学ぶことになる。そのかたわら週2回ミールに通う習慣は長く続いた。

 ロシア語が好きという変わった高校生は、ロシア語だけを武器にキャリアを形成していった。「習いながら教える。教えながら通訳する。通訳しながら大学院に通う」猛烈に忙しい青春に、驚きとともに、うらやましさを覚えながら読了した。

 語学上達には暗唱が欠かせないという著者は、「大学ではどう考えても無理だ」という。教師が暗唱につきあいきれないからだ。「ミール」とはロシア語で「平和」という意味。すぐれて戦後的な名前をもつこの専門学校は、多くのロシア語の専門家を輩出し、閉校した。この学校の全体像としては、『ミール・ロシア語研究所 55ねんの軌跡 生徒文集』(ミール文集編集委員会編、非売品)があるという。   

  • 書名 ロシア語だけの青春
  • サブタイトルミールに通った日々
  • 監修・編集・著者名黒田龍之助 著
  • 出版社名現代書館
  • 出版年月日2018年3月15日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・188ページ
  • ISBN9784768458280
 

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