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銀行支店長の年収が600万円台になる日

銀行員はどう生きるか

 超ベストセラーとなった『君たちはどう生きるか』にあやかった訳でもないだろうが、発行から1カ月で5万部、大手書店では軒並み新書部門で売り上げ1位のベストセラーとなっているのが、本書『銀行員はどう生きるか』(講談社現代新書)である。昨年(2017年)11月、3つのメガバンクが人員削減計画を打ち出し衝撃を与えた。三菱UFJ銀行が約6000人を、三井住友銀行が約4000人分の業務量を、みずほ銀行に至っては1万9000人を削減するというのだ。経営陣は自然減で対応するとしているが、「銀行=安定した職場」という神話が崩壊した。

バブル世代は逃げ切れるか?

 その頃、評者はこのうちの一行のOBらに会う機会があったが、それほど深刻に受け止めた様子はなかった。彼らはすでに取引先企業に役員として出向・転籍し、「逃げ切り」に成功した支店長経験者だった。

 著者の浪川攻さん(経済ジャーナリスト)は、いま40代後半のバブル世代はこれから出向・転籍といった「セカンド・キャリア」を迎えるが、「かつてのような良いポジションが決して与えられるわけではないという『悪い予感』を抱かざるをえなくなっている」と書いている。また若い世代には早々と銀行に見切りをつけ、積極的に転職しようという動きもある。銀行という「不沈空母」が「泥船」になりかねない事態に銀行マンはあわてているのだ。日銀によるマイナス金利政策の導入、収益の柱だった国際業務の環境悪化などが銀行経営を追いこんでいる。国際業務を持たない地方銀行はさらに苦しく、過半数が本業で赤字だという。

ビルの11階にある支店

 著者は本書の書き出しを三井住友銀行中野坂上支店の描写から始めている。ビルの11階にあるのがまず驚き。フロアは見たことがない光景だった。カウンターがない。目に入るすべてが顧客フロアだ。徹底したペーパーレスが図られ、顧客は印鑑を電子パネルに当てる。朱肉による押印作業はなし。事務行員はいない。さらに支店長室もない。IT技術の導入によって徹底した省人化が図られているのだ。こうした新しい店舗が増えると見られる。著者によると、アメリカの銀行では店舗運営のために必要な人員は大幅に削減され、支店長でも年収は600~700万円と人件費が抑えられているという。

 フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)の進化によって、他業種が決済、与信などのビジネスを手掛けようとする動きが広がり、これまでそれらを独占してきた銀行は安閑としておれなくなってきた。

 銀行はどうしたら生き残れるのか? 著者はいくつか予想している。○数名の小さな支店 ○信金・信組に学ぶ社会関係資本的な発想 ○地域密着の自転車による営業 ○短期間での転勤の見直し ○宅建主任・中小企業診断士などの資格取得が当たり前

 一言でいえば、エリートとほど遠い泥臭い営業だ。浪川さんは「東大生の就職先第1位からの陥落は必至」と見ている。ちなみに今年(2018年)の大学生の就職希望ランキング(マイナビ調べ、文系総合)では、三菱UFJ銀行が4位、三井住友銀行が6位、みずほ銀行が8位となっている。まだ人気のようだが、人員減のため今年から採用数は大幅に減る。就職戦線の花形だった銀行業界はこれから大きく変わるかもしれない。   

  • 書名 銀行員はどう生きるか
  • 監修・編集・著者名浪川攻 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年4月20日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・203ページ
  • ISBN9784062884747
 

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