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京大タテカンは「猛獣」のしわざか?!

ゴリラからの警告

 名古屋市郊外の愛知県犬山市には、サルと類人猿の世界的な研究施設である京都大学霊長類研究所と公益財団法人・日本モンキーセンターが隣り合って立地している。モンキーセンターはもともと名古屋鉄道が経営する動物園を中心とする遊園施設で、名古屋鉄道が土地を提供して、京都大学の霊長類研究所を「誘致」した経緯がある。モンキーセンターのリサーチフェロー、霊長類研究所助手、教授を経て京都大学総長に就任したのが、本書『ゴリラからの警告』(毎日新聞出版)の著者、山極寿一さんだ。山極さんは京大総長とモンキーセンターの博物館長を兼任している。ここには日本で唯一、博物館に登録されている動物園がある。大学と密接なつながりをもった世界でも珍しいアカデミックな動物園だ。そんな「園長さん」でもある山極さんが、ゴリラの生態から人間社会を考察するユニークな本となっている。

 山極さんは長年、日本とアフリカを往復し、アフリカでゴリラとともに生活し、研究してきた。そこで得た知見から人間への教訓を書いている。たとえば、サルと類人猿ではトラブルへの対応が違うという。サルは強いサルに加勢してトラブルを抑えようとする。ところが、ゴリラやチンパンジーは一方に加勢するよりもトラブルそのものを抑えようとするという。ゴリラは体の大きさにとらわれずに、互いに対等でありたいという気持ちが強く、チンパンジーはトラブルが広がることをおそれる気持ちが強いそうだ。人間も同じであるはずなのに、昨今、理性よりも感情に重きを置いて行動する人が多いのでは、と問題提起する。それは近所とのつき合いもなく、ネットで情報にアクセスし、他者の存在を考慮しないからではと推測する。

「大学はジャングルだ」

 山極さんは京大総長になり、いろいろ総長グッズを作った。その一つが「京大野帳」だ。扉には「大学はジャングルだ」と書いてあるという。さまざまな多様性があり大学はジャングルと多くの点で似ているそうだ。野帳を手に大学を探検し、ほかにどんな研究が行われているか学ぼうと呼びかけたのだ。大学生協では「総長カレー」の新メニューとして「ブルーシーフード」のカレーを考えた。サバ、イワシ、カツオ、ホタテ、ムール貝など、豊富で絶滅のおそれのない魚介類を積極的に食材に使い、持続的な海の資源の維持に貢献しようというのが狙いだ。

 総長としては大学の中の「猛獣」たちの言うことに耳を傾け、その生き方を全うできるように調和を図るようにこころがけたという。京大では昨今、タテカン問題が話題だが、あれも「猛獣」のなせるわざなのだろうか。また、大学の窓を開けて、社会に還元する「京大おもろトーク」「京大変人講座」「京都アカデミアフォーラム」などを開いてきたそうだ。

 本書は毎日新聞連載「時代の風」の2012年4月~2016年3月の記事をまとめたもの。「ゴリラのように泰然自若」が座右の銘だという山極さんのお人柄が伝わってくるエッセイ集だ。  

  • 書名 ゴリラからの警告
  • サブタイトル「人間社会、ここがおかしい」
  • 監修・編集・著者名山極寿一 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2018年4月30日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・206ページ
  • ISBN9784620325187
 

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