読むべき本、見逃していない?

奥州・平泉の名探偵、義経の死の謎解明

義経暗殺

 兄の源頼朝に追われ1187年(文治3年)に、奥州・平泉に逃げ込んだ源義経。庇護者だった奥州藤原氏の当代、三代秀衡がその年に没し、2年後、同地で襲撃に遭い妻子を道連れに自害したとされる。本書は『義経暗殺』は、そのタイトル通り、義経が何者かに殺害されたという設定で、鎌倉幕府との微妙な関係や、平泉の成り立ちの複雑さを絡ませながら展開する時代ミステリー。

 登場する人物はほとんどが実在した歴史上のものだが、大胆なキャラクターづけがビジュアル的な効果を発揮し、場面の想像を容易にしてくれる。大河ドラマ的な題材だが、大きくふりかぶるような感じはなく、ナゾ解きと歴史エンタテインメントを同時に楽しめる。

「相棒」は男装の女子

 物語はいきなり義経らが死亡していたのが発見されたところから始まる。4代泰衡は反義経派であったが、秀衡の死後はその遺言を守り、アンチの看板は下していた。かねてより、義経をめぐる藤原氏一族の動向に関心をもっていた一人に、清原実俊という中級の文官がいた。

 実俊は、博覧強記にして抜群の記憶力の持ち主として知られ、紛失した文書を記憶を頼りにまるごと復元できるほど。実在の人物であり、鎌倉幕府の歴史書「吾妻鏡」にプロフィールの言及があるという。本作品では主人公に任じられている。

 義経死亡という事件が発生し街のなかはなにやら騒々しい。何があったのかと想像をめぐらせる実俊。その実俊のもとを、当代の御館(みたち)である泰衡が訪れる。実俊が特別な能力の持ち主であり、また、かつて義経と縁があることが分かり、義経事件の解明を依頼しにかけつけたという。

 実俊は「なぜ自分などに」といぶかりながらも応じて出動。現場検証してたちどころに不自然なところを見つけだし、義経死亡は他殺によるものと断定するのである。

 この実俊のキャラクターがユニーク。武家社会が始まったばかりのこの時代ならあるかもしれないと思わせる傲岸不遜な態度がトレードマークだ。直属の上司はおろか、御館の泰衡に対しても呼び捨て、タメ口。身の回りの世話をする「雑色」の葛丸にいつも「お言葉にお気をつけなさいませ」とたしなめられる。この葛丸、男子の格好をした女子で、実俊に特別な思いを持っているものの、実俊はそれに気づくほどの繊細さは持っておらず...。ラブコメ的なサイドストーリーも用意されており、こちらも楽しい。

弁慶らが怪しい動き

 実俊と葛丸に、実俊の弟で、剣の達人である検非違使、橘藤実昌が加わりトリオで事件に挑む。実昌は兄とは対照的で柔和な性格の常識人。検非違使はいわば、当時の警察官だ。

 義経はそもそも頼朝に追われた平泉入りした身。泰衡は義経を快くは思っていなかったし藤原一族内にも反義経派は少なくない。しかも鎌倉からは刺客が放たれており周囲は敵だらけだった。だが頼朝の鎌倉幕府のご機嫌をうかがうならば正面から討てばよく偽装する必要はない。実俊がそうした疑問に頭を抱える一方で、事件と前後して義経の家来が姿を消し、平泉にとどまる武蔵坊弁慶らの妙な動きを見せる。

 実俊らが事件の謎を解き明かした先にあるのは奥州藤原氏の滅亡。後半は、平泉という奥州藤原氏が築いた理想郷のフィナーレを描く歴史小説の趣が強まる。実俊の冷静な目を通して、栄華の王国が存在した意義が語られる。

 作者の平谷美樹(ひらや・よしき)氏は、岩手県久慈市出身。大学卒業後、同県内で中学校の美術教師を務めて専業作家に。義経をテーマにほかに「義経になった男」(角川春樹事務所)がある。

  • 書名 義経暗殺
  • 監修・編集・著者名平谷美樹 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2018年2月14日
  • 定価本体741円+税
  • 判型・ページ数文庫・456ページ
  • ISBN9784575668735

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