NHKの朝の情報番組「あさイチ」の司会を「卒業」すると同時に、同局を退職した有働由美子アナウンサー。転身を決意した理由は「生涯現役」を貫きたいためだったという。フリーになってから刊行された著書『ウドウロク』(新潮社)でそう述べている。
「ウドウロク」は4年前に有働アナが上梓したエッセイ集。本書は「あさイチ」から去り、NHKを退職した機会をとらえて出版された文庫版で「人生で一番悩んだ」という「決断」までの経緯などを加筆した。今回の決断にいたったのは、著者が望む「生涯現役」が、NHKという大組織のなかでは通らない「エゴ」だから。「いつまでも現場にいたい」という思いをかなえるために飛び出した。
3月いっぱいで有働アナが「あさイチ」を去り、視聴者の間からは「有働ロス」を訴える声が上がっているという。だが有働アナが「エゴ」を通したことで、ロスは一過性で済むことになったのだから、ファンにとっては「決断」は歓迎すべきことに違いない。
有働アナが、その不在により「ロス」を感じさせるほど支持されるのは、誠実さが伝わる司会ぶりや、気が利いた仕切りをこなす一方、NHKのほかのアナウンサーにはみられない、型破りであけすけな振る舞いが共感をよぶからだろう。
本書に収められたエッセイも、あさイチの司会で発揮した才気煥発さを再現するような筆運び。楽しい出来事、愉快な話、つらい経験、悲しい思い出――、どんな種類の話でも、メリハリが効いた言葉づかいをしながら軽快なテンポで進めていく。書き手としても一流のストーリーテラーといえそう。
有働アナといえば、自らも「避けては通れない」と述べているが、生放送中の「わき汗」で話題になったことがある。おそらく普通には、その後は、本人はなかったことにして、周りもタブー視しそうなものだが、本書では、臨場感に満ちた現場の様子から後日談までを披露。鹿児島生まれで、兵庫・大阪育ちという有働アナ。関西人特有ともいわれるサービス精神の持ち主であることもうかがえる。
生い立ちや家族などにも触れ、母親との絆、父親が、このところ盛んに使われるようになってきた「毒親」のようだったことを明かす。著者は本書の随所で、50歳を目前にしてなお独身であることについての自虐を述べるのだが、それは、大学生のときも「門限8時半」を課すような父親の厳格さが遠因なのではないかと考えてしまう。
また、仕事では、米ニューヨーク勤務を命じられたとき実は英語があまりできなかったことや、スポーツ番組の担当になって当時巨人の監督だった長嶋茂雄氏を取材し、長嶋氏が実は「阪神ファン」だったことを聞き出した秘話なども収められている。
有働アナは今後「少々経年劣化した体」を休めたのちに活動を再開するという。NHKでは通せなかった「エゴ」がどのように発揮されるか楽しみだ。
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