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いま東京で直下型地震が起きたら...160年前を知る

近世の巨大地震

 あちこちで火山の動きが活発化している。噴火と連動して地震が近いかも、と素人は不安になる。

 いずれにしても、巨大地震がそのうち発生する、ということが各方面で予告されている。本書『近世の巨大地震』は16世紀以降の大地震を歴史的な文献などをもとに調べ直したものだ。大地震はたいがい周期性が指摘されている。昔の被害状況を知ることはこれからの参考になる。

麹町でも半崩れの家が多い

 あまりにも昔の話だとリアリティが薄れるので、比較的最近の地震を振り返ってみよう。1855年の安政の大地震。江戸市中では4293人が亡くなっている。地区ごとに被害状況が報告書として提出され、それを積算したので正確な数字だ。最も死者が多かったのは深川地区で、新吉原、浅草が続く。家屋一軒あたりの死者数も分かっている。本所や深川では0.1を超えている。10軒で1人が亡くなったということだ。

 今の新宿から世田谷に向かうあたりの代田橋は半崩れ、武家屋敷が多い麹町でも半崩れの家が多い。余震だろう、時々小さな地震が起き、そのたびに人々は恐怖で逃げ出す。道端は野宿の人だらけだという。日野や立川では半壊の家はなかった。これらの具体的な被害の様子は当時の人が書き残した日記などで分かっている。東京で直下型地震が起きたらどうなるか。安政の大地震は記録も多いので貴重だ。

歴史学者が行わなければならないこと

 著者の歴史学者、矢田俊文さんは新潟大学人文学部教授。2008年に『中世の巨大地震 』を刊行している。本書はその続編にあたる。このほか『地震と中世の流通』など歴史学者の眼から見た地震研究書がある。幕府への被害報告、人々の日記や俳句、当時の紀行文など「地震史料」を幅広く目配りして論じている。

 「いつどこでどのような地震が起こるのかわからないのであれば、近世に起こった巨大地震とその前後の地震を丁寧に復元することで、起こるかもしれないそれぞれの地域のそなえのための貢献をすべきではないかと考えた」と執筆動機を記す。

 本書では特に、確かな家屋全壊率・死亡者数を明らかにすることに留意したという。中世と違って、役所のシステムが整備された近世では、残された公的な報告書を調べることでそれが可能になる。これこそ歴史学者が行わなければならないことだと強調している。

 本書では、安政大地震のほかにも全国各地の地震被害状況が克明に調べられている。1854年の南海地震よりも1707年の宝永地震の津波被害の方が大きい、1963年の新潟地震よりも1833年の庄内沖地震の方が津波被害がはるかに大きい、なども指摘されている。各地で地震対策に関わる行政関係者にとっては参考になる情報が多いのではないか。

  • 書名 近世の巨大地震
  • 監修・編集・著者名矢田俊文 著
  • 出版社名吉川弘文館
  • 出版年月日2018年4月 1日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数B6判・248ページ
  • ISBN9784642058636
 

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