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幕末のその日、京で何が起こったのか

 幕末の京都は激動の舞台になった。新選組が駆け巡り、暗殺や襲撃、謀議が繰り返される。やがて戦端が開かれ、内戦の現場となって砲弾まで飛び交った。何百人もの戦死者が出た。

 本書『幕末のその日、京で何が起こったのか』(淡交社)は、そうした150年余り前の京都の姿を、有名な事件を軸に再構成したものだ。分かりやすい地図も付いており、京都観光の前に予習しておくと知識が整理できそうだ。

国内の良質な生糸が、海外市場に流れる

 千年の都と言われる京都だが、江戸時代はやや陥没していた。徳川幕府は江戸に陣取って全国に目を光らせ、商いの中心は大阪に移っていた。京都には御所があり、天皇家が住んでいたが、「禁中並公家諸法度」でがんじがらめ。そのあたりのことは、歴史学者熊倉功夫氏の『後水尾天皇』(岩波書店)などに詳しい。菊(天皇家)と葵(徳川家)の関係で言えば、葵の優位が続き、あろうことか徳川家は、日光などに東照宮を作り、家康を祀るまでになっていた。

 その関係に大きな変化が生まれるのが、ペリー来航だ。幕府の鎖国政策が行き詰まり、諸外国に門戸を開くことを強いられる。いくつかの通商条約を結んで、西欧列強との貿易が始まった。本書のプロローグでは、その結果、京都の経済が大打撃を受けたことを伝えている。

 国内の良質な生糸が、海外市場に流れることになったのだ。短期間で生糸の輸出が激増し、国内価格が急激に値上がりする。西陣の織物業界が傾き、諸物価も追随して値上がりする。苦境に陥った京都では、勅許なしで開国した幕府を非難する声が充満し、攘夷を主張する長州藩への期待が高まった。こうして京都には国内各地からの「尊王」「攘夷」の人々を受け入れる下地ができていた。

事件を同時に体験しているかのようなリアリティ

 本書は、幕末の京都に関係する10事件――安政の大獄、寺田屋騒動、八月十八日の政変、池田屋事件、禁門の変、薩長同盟、大政奉還、坂本龍馬暗殺、油小路の変、鳥羽伏見の戦いを順に取り上げ、明治維新へと突き進んでいく様子を伝える。それぞれは語り尽くされた事件だが、コンパクトに、ゆかりの人物、場所、絵図、関係図、写真などビジュアル付きで説明されているので、理解しやすい。

 プロローグでは、さらっとしていた記述が、事件編に進むと、力が入ってくる。とくにディテールが詳しい。読者も現場にいて、事件を同時に体験しているかのようなリアリティに満ちている。

 著者の木村武仁さんは京都にある幕末維新ミュージアム「霊山歴史館」学芸課長。『図解で迫る西郷隆盛』など多数の著書がある。

 桜の季節になって、京都は観光客でごった返しているだろう。訪れる人たちは150年余り前に、血なまぐさい事件が相次いだとはとても信じられないに違いない。しかし中心街でも、ちょっと足を止めると、幕末の事件ゆかりに碑が立っていることに気づく。それらは「わび・さび・みやび」とはちょっと違う、忘れることができないもう一つの京都の歴史を示す。

(BOOKウォッチ編集部)
  • 書名 幕末のその日、京で何が起こったのか
  • 監修・編集・著者名木村武仁 著
  • 出版社名淡交社
  • 出版年月日2018年1月26日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数A5判・125ページ
  • ISBN9784473042286
 

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