本書『本のエンドロール』(講談社)は、印刷業界が舞台のいわゆる「お仕事小説」かと思い読むうちに、ページを繰る手が止まらなくなり、最後は涙腺がゆるんでしまった。
中堅印刷会社の営業マン浦本学は、書籍の印刷がやりたくて大手印刷会社から転職してきた。会社説明会で「印刷会社はメーカー」と学生に思いを語る。対して同僚でトップセールスの実績をもつ仲井戸光二は、「印刷はものづくりではない」と、否定する。
講談社を連想させる「慶談社」の文芸担当の編集者から印刷を受注するのが、彼らの仕事だ。浦本は、編集者や作家の要求に応えたいと、納期や印刷の仕上がり、印刷代について、なにかと出版社側にひきずられる。そのしわよせが工場の現場などに出る。「いる、いる、こういうタイプ」と思う。しかも社内の調整や根回しをあまりしないのだから、正直言って、最初は感情移入が出来なかった。
むしろ興味深く読んだのが、工場のオペレーターの職人わざとも言える仕事ぶりだ。表紙の印刷が特に難しいらしい。色の再現、光沢、手触りなど完璧を期すには、100分の1ミリ単位での調整を繰り返すという。
雑誌や本の売り上げが減っているのだから、当然、印刷業界の将来も明るいわけではない。その中で、小ロット(部数)の完全デジタル印刷製本機の導入(評者は実際に、業界最大手の印刷会社に10部の本を発注したことがある)や電子書籍(印刷会社が印刷しない本を作る)部門の創設など、各社が生き残りに懸命だ。
この物語の主人公浦本も、出版社の「御用聞き」のような存在からしだいに成長してゆく。このあたりは「お仕事小説」のお約束だが、最初「少しイヤな奴」に造形されているので、終盤の盛り上がりはひとしおだ。
最後に謝辞があり、印刷会社、製本会社など取材に協力した23人の名前が記されている。さらに奥付の前に「STAFF」として、この本の製作にかかわった35人(社)の名前が記されている。タイトルの「本のエンドロール」とは、このことかと分かり、ゆるくなった涙腺に自制がきかなくなった。
著者の安藤祐介さんは、2007年『被取締役新入社員』でTBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞しデビュー。『営業零課接待班』『大翔製菓広報宣伝部 おい! 山田』などの著書がある。
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