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アメリカ太平洋艦隊は中国海軍に負け続けている

米中海戦はもう始まっている

 『米中海戦はもう始まっている』というタイトルはいかにも刺激的だが、文藝春秋刊の本書を読み通すと決しておおげさな表現ではないことが分かる。「米中は現在、西太平洋で戦争状態にある」と著者は書きだしている。ミサイルなどを撃ち合う「熱い戦争」でも、かつて米ソで繰り広げられていた「冷たい戦争」でもなく、それは小さな衝突が続く「温かい戦争」だというのだ。

 この戦争でアメリカは負け続けてきた、と軍事ジャーナリストの著者は説く。アメリカ海軍の船乗りや航空機搭乗員へのインタビューを通して、この15年あまりに起きた非常に緊迫した海上事件の数々が描かれている。

 たとえば2013年12月、アメリカの戦艦カウペンスは、公海上で中国の空母遼寧にこっそり忍び寄る作戦を行った。海域から出るように伝えてきた遼寧に対し、カウペンスは「ここは公海です」と応じ、「出ろ」「公海です」の応酬が続いた。やがて中国の小さな揚陸艦が近づき、進路を妨害した。しつこくつきまとう揚陸艦との衝突を回避するため、カウペンスは緊急停止「クラッシュバック」を余儀なくされた。中国海軍が公海上のアメリカの軍艦に立ち向かい「勝利」した初めての事件だった。

 その後、カウペンスの艦長は船室に引きこもり、女性の臨時副艦長との仲が噂となり、解任された。女性副艦長は懲戒解雇された。海軍の上層部は中国との対決が起きたことを否定するような態度を取った。こうした腰の引けた対応が乗組員へのプレッシャーとなったのかもしれない。

 オバマ政権下では中国との融和が図られ、2014年、環太平洋合同演習(リムパック)にも初めて中国海軍が参加した。そのさなか中国の情報収集艦、つまりスパイ船がアメリカ空母ロナルド・レーガンに接近してきた。中国海軍が招待されている演習にスパイ船を寄越すという事態に米海軍は困惑した。それは正面切っての不作法だった。

アメリカの空母は中国に接近できない?

 われわれ日本人は、西太平洋でなにか起きても、最後はアメリカの海軍が守ってくれるだろうと思っている。しかし、それは幻想かもしれない。著者によると、中国は世界で初めて、航行中の空母にミサイルを命中させる技術を開発したという。この「空母キラー」の登場によって、アメリカ海軍の空母打撃群を主体とした戦略は無効化したというのだ。冷戦終結後、対艦ミサイルや迎撃ミサイルの改良を怠ってきたアメリカ。それに対し中国は、イージスシステムを回避する能力のある長距離対艦ミサイルの開発に成功したのだ。さらに大気圏外から攻撃する対艦弾道ミサイル「東風」も開発した。これらを組み合わせると中国はアメリカ海軍をアジア太平洋地域から締め出すことが出来ると著者は警告する。

 中国の軍事要塞と化した南シナ海に対して、尖閣諸島問題で日中の対立が深まる東シナ海は中国の行動もそれほど激しくはない。本書の解説を書いている徳地秀士氏(政策研究大学院シニア・フェロー 元防衛審議官)によると、それは海上保安庁と自衛隊、さらにアメリカのプレゼンスがあるからだという。その上で徳地氏は中国海警局の武力行使に対応するため、海上保安庁の能力と権限の強化が必要だと訴える。

 昨年の北朝鮮情勢の緊迫以来、何度となく目にしてきたアメリカ太平洋艦隊。その実力を本書は明らかにした。トランプ政権下で海軍の増強が実現するのか、日本にとっても座視できない事態が続いている。(BOOKウォッチ編集部 JW)

  • 書名 米中海戦はもう始まっている
  • サブタイトル21世紀の太平洋戦争
  • 監修・編集・著者名マイケル・ファベイ 著  赤根洋子 訳
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年1月15日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六版・342ページ
  • ISBN9784163907932

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