考古学の調査のことを「穴掘り」ということがある。ただし、普通の穴掘りではない。地面の下に宝物が埋まっている。人類の歴史が埋まっている。
近年の有名な「穴掘り」は1974年、中国の兵馬俑だ。井戸掘りをしていた農夫が見つけた。鍬の先が固いものにぶつかり、掘り進めると、素焼の兵士像が出てきた。発掘は今も続いて、これまでに戦車が100余台、陶馬が600体、武士俑は成人男性の等身大で8000体ちかい。世紀の大発見だった。
中国では四川省の三星堆遺跡も有名だ。過去に部分的に遺跡が見つかっていたが、長く放置され、1980年になってからの本格調査で黄金の仮面など、古い時代のとてつもないものが地下から大量に出土した。近年は日中合同の磁気探査などの科学的調査も行われているそうだ。
日本では岩宿遺跡が知られている。発見したのはアマチュアの考古ファン。切り通しでの赤土(関東ローム層)で露出していた石器を見つけた。旧石器時代に日本列島に人類が住んでいたことが分かり、歴史を塗り替えた。
これらの考古文物・史料は、意図的に埋められていたものもあれば、降灰などでいつの間にか地下に潜ってしまったものもある。誰がどのような権限で調査するのか。必要な許可は? 見つかった文物や史料はだれのものか。本書『考古学のための法律』(日本評論社)では調査費の負担や補償、保管と廃棄などの実務のほか、海外の法制や裁判例などもコンパクトに紹介されている。基本的に、考古学関係者のハンドブックだが、取材する側のマスコミ関係者にとっても便利だ。
ちなみに兵馬俑の発見者には、この大発見にふさわしいご褒美はなかったと言われている。社会主義国ということもあるが、こうした文化遺産は人類の共有財産という近年の考え方も影響しているかもしれない。
著者の久末弥生さんは大阪市立大学大学院創造都市研究科教授。考古学関係者ではない。『アメリカの国立公園法―協働と紛争の一世紀』『フランス公園法の系譜』『都市計画法の探検』などの著書がある。
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