死刑は是か非か――。西欧諸国では廃止されているが、日本では世論調査でも存続派が圧倒的だ。さんざん議論されているテーマだが、いま一度、感情論を排して深く考えてみようというのが本書『死刑 その哲学的考察』(筑摩新書)だ。
著者の萱野稔人・津田塾大教授は哲学、社会理論が専門。なかなかのイケメンでもあり、テレビやあちこちの講座でひっぱりだこの人気学者だ。
著者によれば、OECDに加盟している世界の先進34か国の中で、2016年末段階で今も死刑制度を維持しているのは日本、アメリカ、韓国だけ。韓国はもう18年も執行していないという。したがって、日本はいつまで死刑を存続させているのかと、他の先進国から批判されている。
日本の主張は「死刑は日本の文化」。2002年の欧州評議会の会議で森山真弓法務大臣(当時)は「死んでお詫びをする」という表現に「我が国独特の、罪悪に関する感覚が現れているのではないか」とスピーチした。一方で廃止国は「死刑は残酷な刑罰であり、人権侵害」と主張する。日本は人権と対立してもなぜ文化を優先させるのか、あるいは死刑は人権侵害ではない、など廃止国を納得させる普遍的論理で説明することが必要だと著者は考える。
「日本の文化」という説明にとどまっているために、困ったことも起きている。中国などで、日本では死刑にならない犯罪で捕まった日本人が、あっさり死刑になっているのだ。これもその国の文化の問題に集約されてしまうから、おかしいと思っても口を出せない。「内政不干渉」をきめこみ、いわば「見殺し」になる。
著者は哲学者で西欧哲学に詳しい。そこで大御所のカントを紹介する。カントは厳しい「道徳律」で有名だ。道徳は相対的なものではなく、絶対的で普遍的なものだと考えていた。普通に考えると、「人は人を殺してはいけない」という道徳があるとするなら、「人は場合によっては人を殺してもよい」という道徳は成り立ちにくい気がする。しかしカントは死刑を肯定した。
その理由は、一言でいえば、正義の実現のためだ。死刑は「同等性の原理(同害応報の原理)」を体現していると考える。他人に損害を与えたものは、同等の不利益で処罰されねばならないという原理だ。このあたりはさらに深く論述されており、本書のポイントでもあるので、実際に手に取って読んでもらいたい。
本書の中では、さまざまな「常識」についてホントにそうなの?という問いかけが盛んにされている。たしかに、と思ったのは最近の凶悪犯ついての論考だ。いわゆる「道連れ殺人者」たち。自分が死にたいから、他人を巻き添えにする。早く死刑判決を受けて執行されることを望み、何の反省もしないまま消えていく。彼らがいちばん嫌なのは無期懲役で長々と拘束されることだという。代表例として池田小事件の宅間守のケースを紹介している。
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