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たたかう母が子どもの「戸籍」を勝ち取った

日本の無戸籍者

 岩波新書は一般に、学者による研究論文が多いような印象があるが、本書『日本の無戸籍者』はやや異なる。著者の井戸まさえさんは、自身の子どもが無戸籍の扱いを受けた人だ。裁判で闘って勝利し、他の同じような悩みを抱えてきた人たちの支援もしてきた。その意味では本書は、体験を研究に昇華させた「体験的研究論文」といえるだろう。

早産の子を授かって

 著者によれば日本の無戸籍者は1万人以上にのぼると推定される。そうなった理由を6つに分類しているが、多いのは民法772条の「嫡出推定」の規定が壁になるケースだ。

 婚姻成立から200日経過後、離婚後300日以内に出生した子は、婚姻中に懐胎したと推定される。たとえば前夫を、生まれた子の父とするのを避けるために、出生届を出さなかったらどうなるか。法律では出生届を生まれてから14日以内に出さなければならず、期限を過ぎると過料の恐れがある。事情があって調停・裁判などの司法手続きを踏む場合は、決着するまで時間がかかり、その間は無戸籍になる。年間3000件ほどあるそうだ。

 井戸さんは最初の結婚で3人の子どもを生み、その後に離婚した。離婚後に懐胎したのは明らかだったが、4人目の子は早産。市役所の指導は当初、「最初の夫を父として戸籍を作る」だった。

自身が勝ち取った「画期的な判決」

 納得できなかった井戸さんは、ありとあらゆるアクションを起こした。家事裁判(家庭内の紛争に関する裁判)の判例を調べて、ある方法が可能かもしれないことに気づいた。現在の夫を相手に「認知調停」を申し立て、認知させるという方法だ。そして「勝訴」した。これが画期的だったのは、前夫に出廷を求めずに認知が認められたことだった。「離婚後300日問題」の関係者には画期的な判決だった。

 こうして自分の子どもの認知問題をきっかけに「戸籍」について詳しくなった井戸さんは、その後15年にわたって1200組以上の無戸籍の人たちを支援してきた。本書で具体的な実例も多く紹介されている。

 類書では、第39回サントリー学芸賞受賞を受賞した『戸籍と無戸籍』(人文書院)が研究者の書なのに対し、こちらは体験者の話が軸になっており、読みやすい。

 井戸さんは1965年生まれ。東京女子大を出て松下政経塾の9期生になり、現在は5児の母。東洋経済新報社の記者を経てジャーナリストとして独立。兵庫県議会議員、衆議院議員一期(民主党)、NPO法人「親子法改正研究会」代表理事など多彩な経歴がある。政治活動では井戸正枝、著書執筆活動では「まさえ」を使用している。とにかく元気な人だ。

  • 書名 日本の無戸籍者
  • 監修・編集・著者名井戸まさえ 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2017年10月21日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書・256ページ
  • ISBN9784004316800
 

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