がんのうち部位別で女性特有のものである乳がんは、他のがんに比べて罹患率の上昇傾向が強まっている。『我がおっぱいに未練なし』(大和書房)は、コラムニストとしても知られる女性経営者の川崎貴子さんが乳がんと宣告されてから書き起こした闘病記。病気との闘いを「乳ガンプロジェクト」と名付け、ひるむことなく奮闘するさまがてらいなく、日記形式で語られる。
著者は自分の経験がいつか、だれかの役に立てばとの思いで自らの闘病経験を明らかにしたという。
闘病記というと、つらかったことや苦しかったことの振り返りなどで多少なりとも重苦しい気配が漂うものだが、本書は、タイトルからも分かるように、病気の深刻さとは対照的にあっけらかんとしたトーンで綴られている。「98%は本当は嫌。でも、残りの2%だけ実はワクワクしている自分がいるの」とも。
がんが判明したのは2016年10月。診察室で、がん告知に続いて医師が治療法について、病巣などを部分的に取り除く「温存療法」と、がんがある乳房をすべて切除する「全摘手術」があることなどの説明を始めた。「そもそも『抗がん剤治療なし』で『切って済む』のであれば『我がおっぱいに未練なし』の私である」という著者は、説明が終わらないうちから「切ります! 切ります! 全摘ってことで!」と応じ、告知当日に治療法はあっさり決まった。
著者は20年以上前に起業。「働く女性の成功、成長、幸せのサポート」を理念として「主に女性のキャリア支援を特化して仕事をしてきた」という。それが長じて「女性マネージメントのプロ」となり、女性活躍支援の法人コンサルティングなどを行う会社の代表を務める。「女性たちの人生に伴走してきたという自負」があり、情報サイトで連載していた日記に加筆した本書刊行は「何かがフックとなって、仕事やプライベートや婦人系疾患など、現在悩んでいる女性たちに届けばいいなと思っている」と述べている。
著者が「全摘」を即座に選んだのは「未練なし」ということだけではない。、乳房再建につながるケアなどの処置も同時に受けられることがあったことをにじませる。「ついでに、元のおっぱいより大きくするとかっていうのは難しいですか?」とも尋ねるが、これはすぐにダメ出しを受けた。日記は、告知を受けたところから再建手術まで約8か月間にわたり続く。
著者はコラム二ストとしても活躍しているが、本書では全編を通じて、あるときにはボケてクスリとさせ、またあるときにはパンチの効いたオチがある言い回しでニヤリとさせるフレーズや文章をちりばめ、コトの成り行きを追って読み進むことを飽きさせない。笑わせ、ホッとさせ、家族らとのふれあいにホロリともさせられる。
「本物の右おっぱいはなくなったけれど、今生きていることに比べたらそれはなんて些細なことであろうか。生きていれば『取り返しのつかないこと』なんてないのだ。おっぱいだってつくれるし、何より家族への接し方や働き方、人の愛し方すらも、この有限な人生期間においていくらでも進化できるはずだと思う」
著者は「現在悩んでいる女性たちに届けばいいなと思っている」と世に送った本書だが、現在は悩みのない女性でも、悩みも病気にも関係ない男性でも、得られることは少なくなさそうだ。
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