伊達成実は戦国時代の武将で、独眼竜・伊達政宗の最側近の一人。知恵で政宗を支えた片倉小十郎(景綱)に対して、数々の戦で政宗を救い武功をあげた猛将とされる。"政宗の右眼"になろうと生涯戦い続け、政宗没後の江戸時代にも一族の長老として重責を担い、その後の伊達家繁栄の基礎を築いた。
著者の吉川永青(ながはる)さんは、会社員から転じて2011年にデビューして以来、数々の歴史小説を刊行。本書は、出版元の角川春樹社長から「知られざる名将を描いてほしい」といわれ成実を選び、政宗との関係をめぐって謎とされる動きについても新解釈により物語を組み立てている。
成実の父親、実元は、伊達家当主・稙宗(たねむね)の三男。稙宗は嫡男の晴宗と対立(天文の乱)し、実元は父・稙宗側に。両者はその後和解し、実元は晴宗の娘を正室に迎えて、伊達領の南方(福島県南部)の統治を任された。
実元は当初、縁戚である越後守護・上杉家の養子に入る予定だったが、伊達家の内乱で養子入りは立ち消えになった。
天文の乱の間の1544年、晴宗に次男、輝宗が誕生。長男・親隆は岩城家の養子になっており輝宗が第16代当主に。そして1567年、輝宗長男・政宗が誕生する。その翌年、実元嫡男の成実が誕生。母親が政宗の祖父(晴宗)の妹なので、成実は父方からみると政宗の従兄弟叔父、母方からは従兄弟という関係。
政宗と成実はほぼ同じころに生まれ、本書では2人がそれぞれ、梵天丸、時宗丸と呼ばれた少年時代の描写から始まる。梵天丸の将来の天下取りを誓う時宗丸。その誓いは、政宗が病気で右眼を失ってから新たにされ2人の絆は強まっていく。
政宗を盛り立てる猛将ぶりは初陣から発揮される。リアルに再現される合戦シーン。読む者にもその恐ろしさが伝わる描写のなか、成実は恐怖を落ち着いて"理解"で処理しながらひるまず前へ進む。その大事さが分かった成実は、後退しないものの象徴として毛虫を選び兜の前立としたものだ。
そして、のちの伊達家による奥州制覇につながる人取橋の戦い、二本松城攻めなどのエピソードが盛り込まれ、成実は数々の武功を挙げる一方、火事で負傷し右手がほぼ使えなくなってしまう。自ら不自由を余儀なくされ、政宗の屈折した感情にも思いをいたすのだが...。
迎えた豊臣秀吉の時代。政宗もその下に降り、かつての天下取りの夢が消えたあたりから成実と政宗の間にすきまができ、広がる気配となる。成実は秀吉による朝鮮出兵の文禄の役に従軍して帰国後、伏見に滞在していた最中に謎の出奔。そして、関ケ原の戦いのあとに帰参を果たす。武力が及ばぬところで世の中が動くようになった変化に気づき、次代に備えた隠棲だったのか。
成実は、明治以降の北海道開拓での功績から「伊達市」にその名を残す亘理伊達氏の始祖。同家第14代当主・邦成は、戊辰戦争に敗れ知行を失い家臣や家族と北海道開拓に乗り出し苦難を乗り越え農業を定着させ、賊軍出身ながら男爵に叙せられた。
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