昨年(2016年)行われた東京都知事選には21人が立候補した。いわゆる主要3候補(鳥越俊太郎、増田寛也、小池百合子・届出順)のほかにどんな候補がいたか、ご存知だろうか? 当選の可能性のない候補を世間は「泡沫候補」と呼び、新聞は「特殊候補」と分類する。選挙公報と政見放送以外に彼らの主張や政策が有権者の眼にふれることはきわめて少ない。著者の畠山理仁さんは、彼らを「無頼系独立候補」と名付け、その「独自の戦い」を20年追い続けてきた。本書はその記録である。
日本でいま最も有名な「無頼系独立候補」と目されるスマイル党総裁・マック赤坂氏への10年間にわたる密着取材が出色だ。ピンクのコスチュームをまとい、タンバリンを手に踊るコスプレ・パフォーマンスで知られる彼の政治的主張は何か。「笑うことで幸せになろう」という「スマイルセラピー」を提唱し、「スマイル」を政治に取り入れようというのが主張だ。畠山さんによると、赤坂氏は京都大学農学部を卒業し、伊藤忠商事に勤めるサラリーマンだった。独立してレアアースを扱う会社を経営しているので、選挙資金もそれなりにある。供託金がなければ選挙には出られないのだ。
赤坂氏は最初、オーソドクスな選挙運動をしていたという。2007年の東京都の港区区議会選挙に立候補し、わずか179票しか得られなかった。「メディアに取り上げられなければ票は取れない」と考え、目立つために選挙運動は先鋭化していった。著者も記者会見のだんどりを教えるなど赤坂氏とのかかわりを深めていく。
このほかにもまったく知られない候補者たちと著者の関係性は独特だ。取材なのか何なのか? だいたいいくら取材しても発表できる媒体がないのだ。本書がようやくその場になったと言える。彼らは安くはない供託金をどうやって集めるのか、候補者をサポートする謎の広告代理店の正体とは? そもそも彼らはなんのために立候補するのか? さまざまな疑問に答えてくれるだろう。
週刊現代(12月9日号)の書評で映画作家の想田和弘さんは「私たちは無頼系候補を『取るに足りない無益な存在』として黙殺している。それが私たちをも『無益』と断じ、貶めることだとは気づかずに」と書き、畠山さんの営為を高く評価する。
本書は第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。20年間も字にならない取材を続けてきた著者に敬意を表したい。
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