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食物連鎖の頂点に立った後に、何が起きるか

捕食者なき世界

 

 食物連鎖の中で頂点捕食者(トッププレデター)の地位を占めるのは何か。もし、「人間に決まっている」と少しでも思うのなら、ぜひ本書を手にとってほしい。その思い込みをひっくり返す興味深い実例が、山ほど紹介されている。誰もが生態系の崇高さを身にしみて感じるに違いない。

 

 とりわけわかりやすかったのは、ベネズエラのダム湖に生まれた小島で起きた絶滅事例だ。その島は隔絶されているため、雑食性のホエザルの天敵となるジャガーが入ってこない。捕食者がいなくなったホエザルは増え続け、食糧不足に苦しむ。集団生活は崩壊し、サル同士の争いが絶えなくなる。そこに、好物の葉をホエザルに食べつくされた木の復讐が始まる。新たに出す芽には毒素が含まれるようになり、サルたちにとって朝食の時間は苦しい服毒の時間となる。また、アルマジロという捕食者がいないことでハキリアリが緑を食い尽くし、島の生態系がメルトダウンしていくさまが報告されている。

 

 アメリカ太平洋岸の潮溜りで人為的に頂点捕食者を排除する実験を行った科学者の報告も同様のことが示される。トッププレデターであるヒトデを排除した区域はイガイのみが繁殖するようになり生態系は破壊された。しかしヒトデを排除しなかった区域では多様性は維持されていたのだ。

 

 これらの実例が示唆するのは、捕食者がいるからこそ生態系はコントロールされているのではないかという可能性である。

オオカミを導入して生き返った生態系

 

 1990年代後半にアメリカで壮大な「実験」が行われた。オオカミやピューマなどが駆逐されたイエローストーン国立公園で、捕食者がいなくなったシカが大繁殖していた。シカは草や若芽を食いつくし公園は荒廃し、その影響で水源までもが破壊されていた。ここに持ち上がったのが「オオカミ再導入プロジェクト」である。荒廃した環境に導入された8頭のオオカミはシカを襲い、シカを食糧として数を増やしていく。シカたちはオオカミの存在を恐れ、これまでのようにわがもの顔で植物を食い尽くせなくなり、植生は好転した。また、オオカミが食い残した死肉を餌にするほかの動物たちが息を吹き返してくる。公園はオオカミ効果によって、秩序を取り戻したのだ。

 

 大昔、人間は捕食される存在だった。しかし、人間は捕食者たちを退け、いまや頂点捕食者といってもいい存在になった。だが人間はオオカミと違い、存在するだけで恐怖を与える本来的な頂点捕食者ではない。突然に頂点捕食者となったベネズエラのダム湖の小島のホエザルが島の生態系を壊滅させたのと同じことが今の地球で起きていると言えまいか。

 

 人類がこれまでに行ってきた生態系に対する仕打ちがいかに愚かだったかを考えさせられる一冊だ。(BOOKウオッチ編集部 スズ)

  • 書名 捕食者なき世界
  • サブタイトル生物多様性はなぜ崩壊しているのか
  • 監修・編集・著者名ウィリアム・ソウルゼンバーグ著 野中香方子訳
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2010年9月15日
  • 定価1900円+税
  • 判型・ページ数四六版・357ページ
  • ISBN9784167901127
  • 備考文庫化もされている。上記ISBNは文庫版のもの(四六判のISBN:9784163729503)

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