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作家生活10年目にしての作家宣言

サラバ!

 

 2014年に発行され、直木賞を受賞し、2015年に本屋大賞第2位となった『サラバ!』が3分冊で文庫化された。カルトなファンを持つ本書が手軽に読めるようになったのは喜ばしい。

 

 父親の転勤先のイランで生まれ、大阪で幼少期を過ごし、エジプトの小学校に入った主人公の歩には、少々変わった性癖の姉がいた。自分のこと以上に熱心に姉のことを語る歩もまた変わった少年かもしれない。イラン生まれ、大阪育ちの著者の経歴が随所に影響を与えていることは言うまでもないだろう。

 

 「サラバ」とは、エジプト人の友人ヤコブとのマジックワードのような言葉だった。「さようなら」だけでなく、「明日も会おう」「俺たちはひとつだ」という意味をこめた二人だけの合言葉でもあった。

 

 父の赴任が終わり、一家は大阪に戻る。父母の軋轢、姉の奇行を眺めながら、歩は成長し、東京の大学に進み、やがて趣味の音楽を生かしたライター稼業に入る。一方、姉はアンダーグラウンドな世界でカリスマ的な「アーチスト」となっていた。歩は有名人とのインタビューをこなす売れっ子ライターとして活躍していたが、ある外形的な変化から生活が一変する。

 

 あらすじを追うだけでは、本書の面白さは伝わらない。登場人物の変化についていくだけでも大変なのだ。最後に歩はふたたびエジプトへと旅立つ。そして一つの確信へとたどりつく。

 

 主人公の37歳までの自叙伝の形を取りながら、ある家族の崩壊と再生の物語としても読むことが出来る。そして何よりも著者、西加奈子さんの作家生活10年目にしての記念碑的作品であり、作家宣言にもなった。

  • 書名 サラバ!
  • 監修・編集・著者名西加奈子 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2017年10月11日
  • 定価本体630円+税(上)
  • 判型・ページ数文庫判・330ページ(上)
  • ISBN9784094064421
 

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