カメ、ワニ、ヘビ、人間、魚類に共通するものは何か。そう、あくびである。実はあくびはしゃっくり、くしゃみ、おならなどと並んで、進化的に非常に古い行動の1つなのだ。実際に、ほとんどの脊椎動物があくびをする。にもかかわらず、これらの原初的な行動は科学の世界では過小評価され、科学的検証がされてこなかった。心理学・神経科学を専門とするメリーランド大学教授の著者は、そんなあくび研究の草分け的存在だ。彼が独特なのはその研究手法。大がかりな道具や莫大な予算をまったく必要としない「スモール・サイエンス」の手法を取り入れているのだ。
だから「あくびの伝染性」を証明する実験も実にスモール。あくびをする人のビデオ映像を見せ、本当にあくびが誘発されるかを確かめていくだけなのだ。あくびの何に伝染性があるのかを突き止めるための実験もお金をかけず人海戦術で進めてしまう。集めた360人にあくび顔動画の一部を隠したビデオを見せて、あくび顔のどの部分があくびを誘発するかを調べていく。すると、なんとあくびを誘発するのは大きく開いてしまう口ではないことがわかってくる。
こうしたスモールな実験を重ねることで、著者はついに人は退屈だからあくびをするのではないことを実証し、あくびはある行為から別の行為への移行を促すための動作ではないかという仮説を見出していく。この仮説→検証→仮説のプロセスを読んでいると、いつの間にか著者の論考に引き込まれている自分に気付くはずだ。
スモールだが、思わずワクワクしてしまう実験はあくびに限らない。例えば、くしゃみの実験では友人や生徒を総動員し、いろんな条件付でくしゃみをしてもらう実験を行う。鼻をつまみながら、歯を食いしばりながら、目を見開いて......この結果、くしゃみには目を閉じる行為と深い関係があることがわかってくる。
著者の独特さは実験方法だけではない。仮説の立て方が絶妙なのだ。くしゃみとあくびでは動作の初期段階で息を吸うという共通項があるが、この時の表情がオーガズムの時の表情と似ていることを検証する計画を提言したり、おならによるコミュニケーションの可能性を示唆したり、くしゃみは性的関心の正直な表現ではないかという仮説を立てたり、「原初的な行動」から最新科学の新説や提言を次々打ち出していく。
著者が提示するこれらの新説や提言はおそらくスモールな実験でも検証できる。つまり、「私でも検証実験ができるのではないか」という気持ちを起こさせるものばかり。もしかしたら子供の自由研究の題材になるかもしれないとさえ思えてくる。仮説を立てて検証するという科学の楽しさを身近に感じさせてくれる一冊だ。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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