外来種は脅威の対象となりやすい。琵琶湖の在来種を脅かすとして、ブルーギルやブラックバスなどの外来種が駆除されているのも、そんな心理の表れだろう。世界中に蔓延する排外主義も同様だ。侵入してくる外来種は悪者とされやすいのだ。
本書はそんな「外来種悪者説」に真っ向から反証を試みた科学ノンフィクションだ。ジャーナリストの著者は世界中の自然の成り立ちを取材し、外来種が悪者にはなっていない実例を「これでもか」といわんばかりに提示していく。
その典型的実例が、1989年に地中海で大増殖し、フランスからイタリアまでの海岸線320キロを覆い尽くしたインド洋原産の海藻「イチイヅタ」だろう。著者はこれを徹底的に再調査する。すると、大増殖から10年後にイチイヅタは急速に減少し、その代わりに大発生以前よりも多くの海洋生物が生息していることがわかってくる。下水から排出される有機汚濁物質を餌にしてイチイヅタが増殖したが、イチイヅタの生命活動により地中海の水は浄化され、以前より多くの海洋生物が生きられるようになったというのだ。「人間による自然破壊が原因かもしれないのに、反射的に外来種を悪者にまつりあげる例は多い」と、著者は環境保護主義者を批判している。
本書が示す、多数の証拠が語るのは「手つかずの自然など元々なく、生態系は常に外来種が入り込み、変化し続けてきたものである」という事実だ。本書は冒頭に南大西洋の孤島であるアセンション島が紹介される。この島には今、鬱蒼とした雲霧林が形成されているが、これらの樹林はすべて外来種だった。19世紀半ば以降に、世界中から持ち込まれた樹木によって、見事な生態系が形成されたのだ。生態系とは常に動的なものなのだという事実を、本書を読めば誰でも思い知るはずだ。
本書では、「外来種悪者説」を覆すありとあらゆる証拠を並べるという"数のリアル"と、これまで常識とされていた外来種被害のデータの"穴"を綿密に検証する"データのリアル"で、恐ろしいまでの説得力を創り出している。絶滅寸前の在来種を外来種の侵略から守るのではなく、外来種を含む自然の力に任せて生態系の再生を目指す「ニュー・ワイルド」こそが21世紀の生態系であるという著者の考えは、今後の環境保護活動に大きな影響を与えるのではないか。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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