音楽評論家のほか、落語評論家としても知られる著者が、古典落語の演目を5席にしぼって、昭和の名人から現代のトップクラスの落語家を対象に、演者がどう分析して、どんなアレンジを加えて演じられていたかを論じた。評者の落語家、立川談四楼さんは「かつてない画期的な一冊」と述べている。
落語は江戸時代に始まったとされるが、著者よれば「現代落語の原点」は「昭和の名人世代」であり、本書では、昭和30年代に活躍し音源が残されている8代目桂文楽、5代目古今亭志ん生、6代目三遊亭圓生らから語り起こし、古今亭志ん朝、立川談志、さらには柳家小三治、立川談春、春風亭一之輔の話芸を演目別に掘り下げる。「時代を下りながら、名作落語がどのように姿を変えながら継承されてきたか、具体的に検証」したものだ。
取り上げられた5席は「芝浜」「富久」「紺屋高尾」「幾代餅」「文七元結」。4章建ての本書だが「芝浜」と「富久」に1章ずつを充てている。
「芝浜」は夫婦愛を描いたもので高座にかかる頻度は高い。芝の魚市場に仕入れに向かう魚屋の男が途中で大金の入った財布を拾い、仕事をせずに酒を飲み、身を持ち崩すところだったが、デキた女房に救われる―というストーリー。この演目を広めたのは、三代目桂三木助。戦後にブレーンだった作家らの意見を参考に改良を加えて風景描写を強調し、「十八番」とした。
のちに談志が「芝浜」にドラマを持ちこむ。この演目を泣かせる人情噺としての「源流は間違いなく談志である」と著者。さらに「時代を担う」といわれる桃月庵白酒も引き合いに出し「江戸の粋を描く三木助の『芝浜』と、夫婦愛を強烈なドラマとして演じる談志の『芝浜』と、滑稽噺のテイストで笑わせる白酒の『芝浜』を一緒くたにすることは不可能なのだ、一つの演目が一つの型に固定化されることは決してない」ときっぱり。「噺は、生きている。だからこそ、落語は面白い」と続けているが、このトーンは全編を通して落ちることはない。
CDやDVDなどで、音源が残る名人たちの噺を手軽に楽しめるデジタル時代だからこそ可能な"聴き比べ"のポイントを本書は教えてくれる。
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