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日本初の「大全」、ネット通販で引く手あまた

人材開発研究大全

 「大全」とは「その物事に関する事項を漏れなく集成・編集した書物」(デジタル大辞泉)。つまり、専門性が高く事典的なもので、本書の場合はしかも読者層がごく限られると思われるのだが、出版から2か月ほどで数百部以上を売り上げ、関係者を驚かせているという。約900ページ、厚さ約7センチに及ぶ"大著"なだけに、販売チャンネルはネット通販が主だ。

 タイトルからも明らかなように内容は、人材開発に関する論文集。編者の教育学者、東京大学・大学総合教育研究センターの中原淳准教授によると、日本では初の試みという。

 「人材」をめぐっての問題は、1990年代後半に、いわゆるバブル経済が終わったころから徐々に、経営に及ぼす影響が強まっていく。企業は不採算部門を整理し人事制度の改革が行われ、人材育成のプロセスが変化した。つまり、業務を進めるための知識やスキルなどを先輩らから伝えられ、そのなかで自らの能力を鍛える―というようなシステムから、業者を使った研修を導入するなど制度化、組織化へと方向が変わった。本書は、こうした過程で「各企業において『人材開発が奏功しない』という機能不全の状況が起こっていた」と指摘する。

 そのあらわれが、就職後間もない離職の増加。近年では新卒3年以内の離職率は30%を超え、厚生労働省の13年の調査では、1年以内に辞める割合が最も高く12.8%と、10人1人以上の割合だ。

 日本では長く、内部労働市場による労働移動が雇用慣行として染みついており、採用の際の「能力要件」がいまでも非常に曖昧なままという。「内部労働市場による労働移動」とは、労働者の技能がその企業だけにしか通用せず、職場内訓練によってさらに強化され評価が上がると考えられ、労働者は昇進・昇給の機会を外部の労働市場ではなく企業内に求めるということ。

 それではどのような研究が必要なのだろうか――。こうした問いなどに答えるための事典が本書。その読者には、人材開発の実務者らが想定されているが、就活を控える学生らが((図書館で手に取れば)、ライバルに差をつけられる秘密兵器になるかもしれない。

  • 書名 人材開発研究大全
  • 監修・編集・著者名中原淳編
  • 出版社名東京大学出版会
  • 出版年月日2017年4月30日
  • 定価本体9200円+税
  • 判型・ページ数A5判・896ページ
  • ISBN9784130402804

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