医師として地域医療に長年取り組み、多数のエッセイでも知られる鎌田實さんの新著が出た。『「わがまま」のつながり方』(中央法規出版刊)だ。
目の前に近づいてきた超高齢化社会。これまで日本社会が直面したことがない異常な事態にどう対応するか。いつもの心温まる文章で、地域と医療の在り方についての経験を伝え、新時代の処方箋を考える。
本書のキーワードは「2025年問題」と、「地域包括ケアシステム」だ。
2025年、戦後の第一次ベビーブーム世代が、すべて75歳以上の後期高齢者の仲間入りをする。そのことで起きる社会問題をひっくるめて「2025年問題」という。
なぜ、何が、問題なのか。2025年には、75歳以上の後期高齢者が2179万人に達すると予想されている。全人口の5人に1人になるのだ。
一般に高齢者は65歳以上だが、75歳以上になると、要介護者がグンと増える。支援や介護が必要な人が3割に達する。認知症の人も増える。第一の問題は介護の人手不足だ。さらに、介護保険制度そのものが危うくなる。日本の介護費用はすでに10兆円を超えているが、2025年には21兆円になると見込まれている。介護保険料はどんどん高くなり、保険料を払えない人も増えている。介護保険制度自体が破たんする可能性がある。
そして最も深刻なのが、大都市と地方の格差。同じく高齢化といっても、その質が違う。地方では限界集落化が進み、人口減で多数の市町村が消滅の恐れがある。都市部では、一気に高齢化が加速し、人で不足でケアする人が見つからず、大量の「介護難民」が発生すると予想されている。
そこで登場するのが、「地域包括ケアシステム」だ。自分で自分の健康管理をする「自助」と、住民同士の助け合いやボランティアによる「互助」を組み合わせ、地域にネットワークを作ることをめざす。厚生労働省が力を入れている。
だが、鎌田さんは長年の経験から、「地域包括ケアは、国が押し付けるものではない」と言い切る。何よりも、住民が自発的に自分の健康や命を大切にし、お互いに助け合うことに楽しさや生きがいを感じるような地域が大切だと説く。そして、約30年前から諏訪中央病院が取り組んできた様々な試みと実績、ノウハウを本書で開陳する。
「地域包括ケアはどうあるべきか」と言う問いに、鎌田さんはこう答える。
「地域包括ケアは、自由だ」
さらに進んで、「自分も"わがまま"を言え、他人の"わがまま"を受け入れながらゆるくつながっていく社会を築きたい」と。その思いが本書のタイトルになっている。
本書は介護専門誌「おはよう21」(中央法規出版)での連載をもとにしている。あとがきで鎌田さんは同誌や単行本の編集者と何度も議論をしたと記している。長年地域医療に関わってきた鎌田さんと、これからの社会の在り方を真剣に考える編集者の、熱い思いが詰まった本だ。
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